閑話

 ラインメタル王国は、世界有数の有能な魔法使い輩出国である。そんな中で、その最高峰たる魔法使いが王宮魔法使いだ。


「……なんで、私はここにいるんだろうな?」

 エリナ・チャーチルは宿舎の窓から外を眺めつつ。すぐ目の前で行われている演習を見つめていた。彼女の使える魔法は一つだけ。死んだ者を生き返らせる蘇生術だ。

 特殊な魔法であり、修得者も少なく、いざという時には大変重宝されるが、その「いざという時」などそうは起きない。つまり、やることがないのである。

「このままでは、いかんな……」

 エリナはつぶやいた。しかし、何をしていいか分からない。今さら魔法の基礎など誰も教えてくれないし、そもそも聞く事すらはばかられる。

 かといって武芸……エリナは部屋の片隅においてあるクロスボウに目をやった。近接戦闘は苦手だが、遠距離戦闘は得意だった。しかし、その能力が発揮される事はまずなかった。大体仲間が魔法で片付けてしまうからだ。時々取りこぼした敵は、近接戦闘が得意な仲間がたたき伏せてしまう。お陰で、毎日トレーニングで使っているが、エリナのクロスボウが役に立ったことはない。

「八方塞がりか……」

 エリナはバタリとベッドに倒れ、そのまま寝た。容赦なく寝た。サボりとそしられても当然だろう。しかし、これが日常。こうして、エリナの一日は過ぎていくのだった。


 どこか孤立しているエリナだったが、一人だけ友人はいた。ルーン・パットンという十七才の女子だった。ここは寮内の談笑スペース。三日ぶりに二人は会った。

「な~に、いつにもまして不景気な顔して。お悩み相談承ります。コースは?」

「ああ、一番いいやつを頼む」

 冗談めかしていうルーンにエリナはため息交じりに答えた。

「ありゃ、相当来てますねぇ。どうしなすった?」

 月の落ちる静かな湖のごとく静かなエリナに対し、花火打ち上げ現場のように熱く明るいルーン。エリナの方が先輩なのだが、そんな事はルーンに関係なかった。

「いつものアレだ。今日は特に酷い」

「あらら~。シジミとかいいみたいだよぉ~」

 ドンと軽くエリナがテーブルを叩いた。

「飲み過ぎではない!!」

「あはは、今日はご機嫌ななめですなぁ。冗談冗談、目の疲れにはブルーベリーがいいですわよ。お姉様」

 冗談を通り過ぎて明るすぎるルーンに、エリナはより深く静かに潜行した。

「ありゃ……マジでダメ?」

「うむ、マジでダメ……」

 ここにきて、ようやくエリナのダメさに気がついたルーンが、一気にテンションを落とす。

「言ってもしょうがないよ。蘇生術士は他にはいないからぁ」

「だがな、さすがにヘコむぞ。いまだに動員が一度も掛かった事がないなんて……」

 エリナが王宮魔法使いになってから二年。最初は自信に満ちあふれていた彼女だが、半年でゼロレベルになり、今では水面下だ。動員が掛かった事など一度もない。

「当たり前ですよ。そうそう死なれたら困ります。お姉様が暇なのはいいことなのです」

「……お姉様はやめろ」

 ルーンの言うことには一理ある。蘇生術士が暇なのは、ある意味平和な証拠である。それは分かっているが……。

「やめませんよ、お姉様。だって……」

 ルーンはエリナの唇に軽く唇を会わせた。

「!?」

 赤面しながら椅子ごとすっこけるエリナを、ルーンは指を差して笑った。

「あはは、何回やっても引っかかって、何回やってもこれですなぁ。全く、笑えますぜ。お姉様!!」

「この!!」

 椅子からゆっくり立ち上がり、指をバキバキ鳴らずエリナ。

「今日という今日は……」


『総員非常呼集非常呼集。国軍より応援依頼あり。直ちに出撃せよ。なお、今回は死者も想定される。至急対応されたし』


 寮内に緊迫した声が流れ、全員がバタバタと出撃準備に入っていく。

「おう、気を付けて言ってこい。死んだら蘇生してやる」

 急いで談話室を出ようとしていたルーンに、エリナは手を上げて言った。一方のルーンは一瞬きょとんとして、思い切り笑った。

「あはは、お姉様、聞いてました? 『死者も想定される』。初陣おめでとうございます!!」

「うん、言ったかそんな事?」

 エリナは記憶を辿ったが、聞き流していたので思い出せない。しかし、ルーンは覚えていた。はっきりと。

「ほら、急いだ急いだ!!」

 エリナはルーンに背中を押されて自室に戻り、とりあえずクロスボウを片手に適当な馬車に乗り込んだ。お前に用はないと言われずに良かった。内心でエリナは思った。

 手慣れたもので、三十分もあれば十五台の大型輸送馬車に百五十人が乗り込み準備完了となった。

 

 そして、一斉に駆け出す。エリナの初陣の地へ。

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