第18話 旅行へGO!!

 また旅で申し訳ない。

 事の始まりは、村の冬祭りの事だった。

「うわぁ、色々出店ありますねぇ」

 アリスが浮かれて声を上げる。

「散財はそこそこにな……」

 祭りなどどうでもいいのだが、どうしても来いというアリスの願いでこうしてここにいるわけだ。まあ、こんな小さな村の祭りなので、大した人出ではないのだが……。

「あっ、射的がある!!」

 アリスが指差した先には、確かに「射的」と書かれた出店があった。

「おっ、寄っていきな。猫ちゃん用のミニクロスボウも作ってあるぞ!!」

 出店の兄ちゃんが威勢のいい声を掛けてきた。

 ふむ、私用のクロスボウか。これは挑戦と受け取ろう。

「そのにやけ面が泣き面になるのが楽しみだな……」

 私は出店に向かっていった。アリスも黙って付いて来た。

「よし、やろう」

 私はアリスが持っていた財布から銅貨3枚をもらい。テーブルの上に静かに置いた。

「全部で5本だ。1000点に当たったら豪華賞品プレゼント!!」

 渡されたクロスボウはまるでオモチャだったが、一応ちゃんと矢がつがえられるようになっている。当然、狙うのは1000点。当然ながら、高額商品の点数の的は高速で動いている。しかし……猫の動体視力を甘く見たな。

「1発だけ試し撃ちでノーカウントだ。全てで6本の矢がカウンターに置かれた。

「では、さっそく撃たせて貰おう」

 私は2本足で立ち上がり、まずは一発目を撃った。酷く癖がある銃だったが、いきなり1000点をぶち抜いた。兄ちゃんが口をアングリさせている。そこから立て続けに、5発全てを高額商品の的に命中させた。

「み、店じまいだ……」

 兄ちゃんが泣きながらカウンターに置いたのは……私にしてみたらガラクタみたいなものだった。……えっ、なんで猫なのに銃が撃てるかって? それは言えないな。猫の秘密だ。

「うわ、これトネリコシーパラダイスの宿泊券じゃないですか!!」

 アリスが歓喜の声を上げた。

「なんだ、それは?」

 アリスが喜ぶ意味が分からず、私は素直に聞いた。

「最近出来た海に浮かぶリゾート地です。このために島1つ作っちゃうんですから、やる事凄いですよねぇ」

 ……島など作れるのか? まあ、ここには魔法がある。何があってもおかしくはない。

「さっそく行きましょう。明日にでも!!」

 完璧にノリノリ状態のアリスだ。

「おいおい、性急過ぎないか?」

 こうなったら止まらないと分かってはいたが、私はとりあえずアリスを止めた。

「善は急げです。今から準備して明日の朝出ます。港があるのは西のポート・セルシオです!!」

 ……やれやれ。

 こうして、私たちはまた旅の人となったのだった。


「どうやら、私たちは吹雪に好かれているようだな……」

 後に観測史上最大とまで言われる猛吹雪の中、我々は隣町までたどり着けず、野営を余儀なくされた。これ以上突貫したら命に関わる。

「温かいココアいれました」

 猫缶の中身と共に置かれたのは、水ではなく白みがかった茶色の液体だった。なんだか分からんが一口舐め……あつ!?

「こ、こら、熱い!! しかもこれ、チョコレートではないか!! せっかくだが私は飲めない。気持ちだけ頂いておく」

 私は猫缶の中身を平らげた。

「あっ、ごめんなさい。すっかり忘れていました」

 ……まったく、大丈夫か?

「それにしても、もの凄い吹雪ですね。そろそろ春が近いのかな?」

 風で揺れるテントを不安げに見つめながら、アリスがつぶやいた。

「季節の変わり目は天候が悪いか……。私が元々いた国と同じだな。

 私は毛繕いをながら言った。

「そうなんですか?」

 アリスが興味を持ったようだ。

「ああ、日本には春、夏、秋、冬と四季があってな。まあ、それぞれ季節の変わり目は天気が良くないのだ。野良にとっては辛い時期よ」

「へぇ、そうなんですか。こちらでも四季はありますよ。ただ、春と秋は極端に短くて、夏と冬は異常に長いですが……」

 そう言って小さく笑うアリス。そうか、ここにも四季があるのか。なかなか趣があっていい。

「さて、馬車の様子を見てこよう。お前は先に休め」

 それだけ言って、私はテントを出た。テントとたき火があるが異常はない。馬車と積み荷も問題なさそうだ。それにしても、風に当たると一気に体温を持って行かれる。アリス特製の防寒着がなかったら、寒さでやっていられないだろう。私はたき火に近づいた。風のせいでほとんど熱が感じられない。全く、なんて天気だ。

「ふぅ、ここに来てからそこそこ経つが、雪ばかり見ている気がするな……」

 私がいた東京という街は、雪など降ってもチラチラ程度。積もろうものなら大惨事だったが、そいつらがここに来たら発狂していただろう。電車? ふん、お話にならんだろうな。猫だって人間の生活くらい多少は把握しているのだ。

「ドラゴン!!」

 地面に魔方陣が描かれ、見覚えのあるドラゴンが現れた。

「お呼びですか?」

「そう低姿勢になるな。相手はどこにでもいるたかが猫だぞ。普通に話せ」

 私は苦笑しながらドラゴンに言った。

「いえ、喋られる段階ですでにどこにもいないと思いますが……」

 ……ツッコミ入れおった。やるな。

「まあ、見ての通り旅の最中でな。最初はお前に運んでもらおうと思っていたのだが、アリスの奴が馬車と強行してな」

 私は苦笑した。

「それは正解です。この時期は特に寒いです。上空の気温が低すぎて死んでしまいます」

 ……危なかった。アリスもたまには役に立つ事をするものだ。

「それで、ご用は?」

 ドラゴンが聞いて来た。

「なに、名前を付けようと思ってな。召喚獣はそうすることでパワーが上がるらしい」

「な、名前ですか!!」

 ドラゴンが首を仰け反らせた。

「ん、嫌か?」

「とんでもありません。今までどこに行っても疎まれ忌み嫌われていたのに、名前なんて……」

 ……いや、そこで泣くなドラゴンよ。なんだか、悲しい奴だな。

「徹甲弾と徹甲榴弾、どっちがいい?」

「えっ?」

 ドラゴンがビックリした顔で私を見た。見たことあるか? ドラゴンのビックリ顔。

「冗談だ。アリス式に考えただけだ。さて、どうしたものかな」

 ……出てこい。私のネーミングセンス。

「そうですね……。自分で自分の名前を決めるのは恥ずかしいのですが、「トラ」で」

「いや待て。むしろ、私がトラだと思うが……キジトラだしな」

「じゃあ、メインクーンで……」

 それは我々の品種だ。

「困ったな。いざとなると決まらないものだ」

「では、チャトラン……いや、これは各方面にまずいな。茶トラじゃないし。よし、今ちょうど吹雪きだから、ブリザードで」

「ありがとうございます!!」

 瞬間、ブリザードから伝わってくるエネルギーが増した気がする。夏どうするんだというツッコミはなしだぞ。

 こうして、ドラゴン改め、ブリザードとの会話を楽しんだ私だった。


 翌朝、吹雪は無事に収まった……とは言えないが、行動可能なレベルまで収まった。

「さぁ、行きますよぉ!!」

 テント等を撤収し、馬車は盛大に雪を跳ね飛ばしながら進んで行く。濡れると壊れるらしいのでラジオは使えないが、なんかこうアップテンポな曲が欲しくなる。

 吹雪で足止めを食ったので途中の町はすっ飛ばし、一気に港町ポート・セルシオに向かって進む。夜は危険なのでさすがに野営したが……。町に到着したのは村を発って4日後だった。

「ほぇぇ、大きな船ですなぁ……」

「私は海が見えた時点でほぇぇだ。見たことなかったからな」

 海というものはなんにつけスケールが大きい。この船にしたってトネリコシーパラダイスまでの専用船だ。やる事が大きすぎる。

「ちょうど出港時間です。行きましょう!!」

 船に登るタラップとかいうやつを駆け上り我々は船上の人になったのだった。……まあ、猫だがな。

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