1章 60年ぶりの面接に向けて part1

わしは、求人情報誌(タウンワーク)を眉間に皺を寄せて険しい目で一覧を見ていた。

「今の若者はこんな細かい文字を読んでいるのか…。」

わしは、求人情報誌を見て仕事内容ではなく若者と自分の視力の差を感じでやや苛立ちと似た感情が芽生えていた。

そんな事もありながらも仕事を探していた。

求人情報誌P25の地元求人特集に書いてあったローソンの求人が家も近いし何より年齢関係無く募集しているのがこれしかないと言うことだ。


ローソンの面接に向けてまずしないといけないのは、ローソンに電話して面接の約束をしないといけないだが、わしの家には電話がないから電話を買うことからなのだ。

電話も少なくても20年は使っていないからどんなの買えばいいかもわからない有り様で携帯電話(?)を手に持ったこともなく固定電話も黒電話しかわからない。

取り敢えず、テレビで宣伝していたソフトバンクとやらに行ってみることにした。

宣伝も犬が陽気に喋るのも少しお気に入りだったりもする。


善は急げなので求人情報誌を閉じ

眼鏡(老眼鏡)をかけ直し特に着替えることもなく古びた財布を持ち久々の外出をした。


今日は、生憎の曇天で割りと散歩日和だったりする。

腰がそこそこ曲がっているわしは歩くのが遅く数百メートルの目的地(ソフトバンク)も30分ほど掛かってしまった。

目的地の入り口には着いたものの初めて来た店は何歳になっても緊張する。

少しうろうろしてるとガラス越しに見えるスタッフの方々が怪しそうにわしを見てくる視線がもっと足をすくむませた。


入り口でもう何分間うろうろしてただろうか、痺れを切らしたかのようにスタッフがわしに話し掛けてきた。

「あのー何がご用ですか?」

わしは、人に話しかけられるのも毎週水曜日の自宅訪問販売コープ共済のドライバーとしか話していなくて人見知りしてしまってスタッフへ返答するのも少し黙り混んでしまった。

怪しそうに思った店の中のスタッフが通報したのか解らないが振り向くと警察がわしを見ていた。


スタッフと警察に挟まれている状態がわしにとってはとても嫌悪感にしか感じられず家に帰ろうとしたとき警察に呼び止められてしまった。


「お爺ちゃん!ここでなにしてたの?」


わしは、動揺しながら答えた

「準備だよ」


警察は怪しいと思ったのかわしをパトカーに乗せて交番まで連行し事情を聞いてきた。

わしは、椅子に腰を落とし少しゆっくりめに話をした。

「電話が欲しくて店に行ったのはいいんだが初めて来た店に入るのが緊張してうろうろしてしまった」

警察は疑う様子なく「そうだったんですね」と返答し、わしは釈放された。

わしは、86歳になって初めて警察にお世話になってしまった。



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