第12話

定期飛行便の発着所は、多くの人で賑わっていた。

「……すごい人。」

「そうかな?これでも少ない方だと思うけどね。」

ジャックはくくっと笑いながら言うと、懐からチケットを取り出してリアに差し出した。

その拍子に、手袋と袖口から金属質の輝きがのぞいたのに、リアは気がついた。

「………それ…。」

「ん?…………あぁ、これかい?」

彼は苦笑気味に軽く袖をめくって見せた。

そこから見えた、金属質の腕に、リアは息を呑んでいた。

人肌の延長上に、至極当然のように金属の塊がついているのがひどく異質だった。

ジャックはすぐに袖を戻した。

「君のような上流階級で生きてきた子には、縁の無いものかもしれないね。」

「義手………?」

「そう、義手だ。私は、この義手を作る仕事をしている。」

彼はいったんそこで話を切り上げると、リアの背を押してやってきた定期飛行便に乗り込んだ。

整然と並んだ座席の、なるべく壁際を二人分選んで腰掛ける。

目立つといけないから、と彼は眼鏡を貸してくれた。

「度は入っちゃいないよ。」

リアはジャックの顔を見た。

彼は、指で得意げにサングラスを押し上げて見せた。

「……サングラスをかけているのに、伊達眼鏡もいるの?」

リアの質問に、ジャックは困ったように笑った。

「普段はそれをかけてもいいんだけど……ちょいとばかり人が多いと変わった目で見られることが多くてね。人の多い場所に出るときはこっちをかけることにしてるんだ。」

「……?意味がわからないわ。」

「ふふ、いずれ私の気が向いたら話してあげる。」

ジャックは謎めいた笑みで言った。

リアは、その笑顔を見ながら疑問を口にする。

「あなたは、何者なの?」

「………そうだねぇ……。」

彼は言葉を探すように視線をさまよわせながら黙り込んだあと、再びリアに目を向けた。

「“欠けた者”に寄り添う者。彼らに、再び生きる希望と、人間としての誇りを取り戻す手伝いをする者。」

抽象的な言葉に眉をひそめるリアに、ジャックはくすっと笑った。

「ふふ、少し意地悪をしすぎたかな。」

「ええ、さっぱりわからないわ。」

「君は自分の意見を率直に言うんだね。」

「言わないと伝わらないでしょう?」

「たしかに、そうだね。そういうのは嫌いじゃないよ。」

そして、彼は続けた。

「法的には認められていない、義肢装具士──それが私の本業だ。」

「義肢装具士………?」

リアは耳慣れない言葉に首をかしげた。

その様子に、ジャックはあの義手がはまった方の袖口をまくって見せた。

「さっきもちらっと説明しただろう?私は、こういった欠損部位の代わりになる義肢をつくる仕事をしている、と。」

ジャックは、袖を戻しながら肩をすくめた。

「本来ならばこういった職業は厳正な資格試験をパスした者でないと大っぴらに活動できないのだけど。私はそういうものが嫌いだから、全部無視して非合法経営している。」

「それって大丈夫なの……?」

「いいわけがないさ。おかげで、〈クリムゾン・ハンド〉の連中にはマークされている。」

サングラスの理由だよ、と茶目っ気を混ぜて言ったジャックだが、リアは真っ向から〈クリムゾン・ハンド〉に刃向かう人間が実際にいたことに驚きを隠せなかった。

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