第11話

──────

そこから先は、あっという間に過ぎていった。

翌日の朝にやってきたあのルームスタッフに返事を告げた。

彼は、何も言わずに頷いてくれた。

そして、クリムゾン・ハンドのビルから出るまでの手引きをしてくれた。

清掃用具入れの中に入るというのはなかなか新鮮な体験だったが、おかげで怪しまれずに外まで出てくることができた。

「……私がお手伝いできるのは、ここまでです。そこの角を曲がって、ふたつ目の角で、今回の件を依頼した方が待っている手筈になっています。」

「……急に言ったのに、ずいぶんフットワークの軽い人なのね。」

「きっとあなた様ならばすぐにでもお返事くださるだろうから、と。」

そこで、彼は目を伏せた。

「……この2年、心を無くされてしまったようなリア様を見ていられませんでした。」

ですが、と彼は小さく笑った。

「今日のあなた様は違います。……ご無事で、エース様と再会できますように。ささやかながら、お祈りしております。」

リアは、彼の言葉に頷いて、本当に久しぶりに笑った。

「ありがとう。」

そして、彼女はルームスタッフに背を向けて歩き出した。

角を曲がるときに少しだけ振り返ると、彼は一礼してくれた。


ふたつ目の角で待っていたのは、これといった特徴の無い印象を受ける男だった。

薄手のレンズのはまったサングラスをしていた。

「………あなたが、手紙の人?」

そう声をかけると、男はふっと笑った。

途端に、雰囲気が華やぐ。

不思議な男だとリアは思った。

「そうだよ、歌姫殿。」

「あなたは、“鷹”を知ってるの?」

あえて手紙に使われた単語で試すように言ったリアに、彼は笑みを深めた。

「賢いお嬢さんだ。……無論、エースのことは知っているよ。」

ついておいで、と男は歩き出した。

リアはその背中に尋ねる。

「何処に行くの?」

「定期飛行便に乗って、外縁の端に降ろしてもらうのさ。そこからのほうが手っ取り早い。」

「でも、私は持ち合わせが無いわ。」

「ふふ、そんなことは気にしないでくれよ。前祝いだと思って。」

そうそう、と彼は思い出したようにリアを振り返った。

赤茶けた蓬髪が、ふわりと揺れた。

「名前を言ってなかったね。私の名は、ジャック。以後お見知りおきを。」

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