第8話

「──────」

 至近距離から眺める瞳は美しいのに、そこに彼女の心はない。どれほど長く、深く唇を重ねても、そこにあるのは空しさだけだ。

「……お前は、いつになったら俺を見てくれるんだ?」

 唇を離し、吐息がふれあう距離で、キングは尋ねる。

「……あなたには、感謝してるわ。こんな私でも、会いに来てくれるから」

 無機質な声で、リアは答える。

「でも、ごめんなさい。私の心は、もう彼にあげたから。身体はあげることができても、心はもう捧げてしまったから」

 沈黙の後、キングは静かに身を起こした。

「……酷い女だ」

「……自分でもそう思うわ」

 リアの言葉に、思わず苦笑が浮かぶ。それから、肩越しに彼女を見た。

「……リア」

 返事はない。

「いつまでも、ちっぽけな期待を抱え込むのはやめておけ。もう2年だ」

「……まだ、2年よ」

「期待なんて、いつだって最後は裏切るんだ」

「……彼は、生きてるわ」

「だとしても、ボスは失敗者をまた重用する人じゃないのはわかってるだろ。あいつが同じ舞台にあがってこれる可能性なんて皆無だ」

「………だとしても」

 リアは、小さく続けた。

「………生きてるって信じてる」

 キングは立ち上がった。

 これ以上きいていたら、どうにかなってしまいそうだ。

 黙って部屋のドアに向かう。

 その背を、呟く声が追った。

「……あなただってそうなんじゃないの?」

 目の端に、黒髪がちらついた。脳裏を気の強そうな碧眼がよぎる。キングは、鮮明によみがえる彼の顔に無性に腹が立った。

 その場にいるだけで人を惹きつけるというのは、きっとあいつにこそ似合う言葉なのだろう。いなくなって2年になるというのに、自分でさえ忘れられないでいるのだから。

 だが、それを口にするのは負けを認めるようで嫌だった。

「……さあな」

 だから、キングそれだけを口にして部屋をあとにした。

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