第2話
歓楽都市ルナ=ソレイユ。
昼も夜も常に娯楽人で賑わう眠らない街。
その社会は、大きく二つに分かれている。
ひとつは、シティと呼ばれる中心部。
豪勢なカジノやクラブ、ホテルなどが商店街のような気安さで立ち並んでいる場所。
主にルナ=ソレイユの外からやってくる富豪たちがここを訪れ、私欲を肥やす。
もうひとつは、外縁と呼ばれるシティ以外の場所。
薄汚れた酒場やいかがわしい雰囲気の安ホテル、柄の悪い連中の溜まり場などが密集する、ルナ=ソレイユの暗部。ここで暮らす人間は、生きるために犯罪に手を染める者が大半を占めると言われている。
ルナ=ソレイユという都市は、その両極端な社会をのせる天秤のような場所だ。そして、エースは闇に傾く天秤の皿の上で暮らしている。
この街は、闇に生まれた者は闇に生き、光から闇に落ちた者は二度と這い上がれないように出来ている。外縁に暮らす者たちは、一生きらきらと輝く場所を羨みながら生きるしかないのだ。
そんな掃き溜めのような外縁の薄汚れた石畳を歩いていると、不意にエースの横に並ぶ人影があった。
「よお、片腕の色男」
エースは、その軽い口調に不機嫌そうな表情を露骨に浮かべた。
切れ長で色素の薄い灰茶の瞳。同色の髪は後ろでひとつに束ね、気怠そうに煙草を咥える口元には、小さなホクロがひとつある。今一番見たくない顔だった。
「失せろ、ジョーカー。今日最初の知り合いがてめえなんざ、胸クソ悪ぃんだよ。」
エースの口の悪さにも全くひるむことなく、彼はむしろ愉快そうに笑った。
「訂正しとくぜ、エース。俺はそこかしこに沸いて出んのが仕事だ。諦めろ」
「最悪な仕事だな。転職をすすめるぜ」
「お生憎さん、この仕事は気に入ってる」
人を食ったようなその笑顔に、エースは閉口するしかない。
ジョーカーは、ルナ=ソレイユではそれなりに知られた賭博師であり、いくつもの名を使い分けては情報を集める情報屋でもある。
“ジョーカー”という名前自体、本名ではないらしい。まあ、特に本名を知りたいとも思わないので、エースはそのままジョーカーと呼び続けているが。
青年は不機嫌にじろりとこの食えない情報屋を睨みつけた。
「……で?わざわざ出てきて俺に何の用だ」
「別に?特に用はねえよ」
飄々と応えたジョーカーに、エースは額に青筋が立てて怒った。
「あ?だったらほっとけクソ野郎」
しかしながら、こちらがどれだけ凄んでもへこたれないどころかせせら笑うのがこの男の嫌なところである。
「どの道お前もクイーンのとこに行くんだろ?行き先が同じなんだからいいだろ」
「よくねぇ。半径5メートル以内に入ってくんな」
「照れ屋だねぇ、エースくんは」
含み笑いを浮かべながらも、あくまでも隣を歩くジョーカーに、エースは苦虫をかみつぶしたような顔を隠さない。
「……何を好き好んでてめえと……」
「俺にマークされた段階で、お前の運の尽きだ。俺じゃなくて、お前の不幸体質を恨むんだな」
そこで言葉を切ったジョーカーは、視線を足元から前に向けた。
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