第4話
放課後。
また昨日みたいにあの声は、きこえるだろうか。そう思いながら、とりあえず図書館まで上がってきた。放課後なんて特に何もやることがない。家に帰っても誰もいないし、独りでいるのはつまらない。
だから、学校に居たほうがいい。それに、あの声の主が、この学校に居るとわかったのだから、家に帰る理由なんてない。
--と、思っていたそのとき。
「--!これって…。」
あの歌が、きこえた。
確かに誰かが歌っている。その声は、懐かしい声。聞き覚えのある懐かしい--。
「この声、まさか…!」
俺は屋上にむかって、自分の中に、確かな確信を持って走った。そうだ、この声は…。
昨日、誰かなんてわかるわけがない。
でも…!
屋上に着いた俺は、1人の少女を見つけた。彼女は、、
「小笠原さん、君だったんだね。あの歌をずっと、歌っていたのは。」
振り返った彼女は、あのクールな小笠原結衣だった。
「…歌っていた?ずっと?…どういうこと?あなたは、私と会ったことが無いはず。…何故?」
彼女は、かなり混乱していた。俺も少し混乱していた。
「俺は、、小学生の時、君のその声で、その歌をきいた。というか、きこえた。その歌が、その声が。そのときから、ずっと、君の歌が、声が、好きだった。その声の主に会いたかったけど、中学の時に、その歌をきくことができなかった。でも、俺はずっとその歌を覚えていた。声も。それで、昨日、その声が、きこえた。だから、俺は、今日、会いに来た。君に。」
「…もしかして、あなた、…隣町の小学校だった?」
「そうだよ。」
「ああ、…あなたに、会ったことあったんだ。私。…だから、とても懐かしく思ったんだね。」
彼女が笑った。初めて笑った。
「そっか、私の歌、きいてたんだね。下手くそだったでしょう。」
「そんなことない。」
「でも、…覚えていてくれる人がいたんだね。中学の時にきこえなかったのは、私が別の中学に行ったから。演劇やりたかった。ほら、小学校の隣の中学には、演劇部、ないでしょ?…演じることが好きというより、目立つことが好きだった。でもね、私がいろんな役に立候補して、演じると、 いろんな人が私を白い目で見てくる。それが怖かった。演劇は、好きだったけど、それが嫌でやめちゃった。そのあと、この高校に来て、自由にバイトしたり歌ったりしてた。まさか、君みたいな人がいたなんてね。」
「そう…なんだ。」
「…私を見つけてくれてありがとう。覚えていてくれてありがとう。私に会えて、話をきいて、今、君はどう思った?」
「素直に嬉しい。でも、話をきいて少しだけ思うのは、君の演技もみてみたい」
「私の演技を?…下手だよ。」
「下手でもいい。それでも、あの声で、演じる君を想像すると、生でみてみたいなと思う。」
素直な気持ちを素直に答えた。
「…そう。考えてみようかな。」
「それがいい。」
あんなに話しにくかった彼女と、こんなに話せるなんて、思っていなかった。
この一瞬で、彼女の俺に対するイメージが変わったんだろう。
そう、思った。
俺の彼女に対するイメージも、変わった。
彼女は、花のように美しく笑う。すごく綺麗な少女だった。
「また、ここで歌ってくれる?」
「…いいよ。歌ってあげる。今度は、君のために。」
「嬉しいよ。ありがとう。」
そのとき、俺の背中を押すように風が吹いた。
俺は、やっと大人になれた気がした。
Fin.
恋歌 風鈴水影 @1999altar
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