オルゴール


少し昔話をしましょうか。私はある日母からオルゴールを貰いました。それは私が初めて触れるもので、初めての感覚でした。暖かい暗闇に包まれていた私はそのオルゴールを頼りに精一杯生きていたのです。しかし頼りのオルゴールは時々壊れました。早くなったり遅くなったりするオルゴール。その度にドスッというドアを蹴破るような音が響きました。その音は私の外からするもので、私に響くのです。それが一層不安を煽りました。


どうすることも出来ないままただ時間だけが過ぎて行きます。大した動きも出来ない空間。もどかしい。もどかしい。そんな思いが頭を埋めていました。そこから何日か経ってから、一向にオルゴールが壊れる気配はありませんでした。それはとても嬉しいことで、外からの音の存在も忘れるほど長い時間でした。しかし、また数日たって、その音は復活しました。1回落ち着いたものがもう1回ある恐怖。それは前よりも壮絶なものでした。


私のいる場所が外から圧迫されてるような感覚。酷く揺すられて、吐き気がしました。なにかドロっとしたものが私を包んだとき、私は何かを汚された気がしたのです。


ドン!!という大きな衝撃。その音と共に私は明るい場所へはじき出されました。その時私が聞いたのは女の人の啜り泣くような声でした。


その日から私はオルゴールの音を聞いていません。それはなぜだから分からないですが、とても、とても寒いのです。これ以上無いほどの寂しいという感情に埋め尽くされました。


ああ、さむい。さみしい。

ああ、あなたは無事ですか?

ああ、お母さん。


あなたは幸せですか?

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