I think about me.

早坂 依

ああ、そういえばこんな奴いたなって


私は、高校を卒業した。それは自然であって、ごく普通のことであって、幸せなことである。しかし、普通ではなくて。いやだってそうだろう。1クラス40人が6クラスもあるのだ。全部で240人、よくこれだけ人が集まったとも言える。こんな田舎にも自分と同い年の人間が240人もいた。そしてこの世の中には学校に通えずに、読み書きを知らぬまま亡くなっていく人もいる。そんな世界で、こんなにも勉学に励む時間があったのだ。それだけでかなり裕福で、恵まれたことなんだろう。


クラスには、あまり仲がいい人がいなかった。自分から話しかけない。しかし決して仲が悪い訳では無い。話しかけられれば答えるし、それなりに笑い合い、ふざけ合う。ただ、休みの日に誰かと遊んだり、移動教室を一緒に過ごしたり、学校帰りに遊ぼう、などということは一切なかった。かと言って勉強を真面目にするわけでもなく、提出物はしっかり出していた。そんな私は誰から見ても可もなく不可もなくという存在だっただろう。


結局私は適度に真面目に適当を演じていたのだ。人間関係も、勉強も、部活も。何をそんなに熱くなっているんだと何事にも真面目な人を笑いながら、どこかで自分を弁護していた。大丈夫、私は本気をだしてないだけ。本気を出せばこんなやつらなんか。そんな思いだけで、そんな皮肉だけで、高校生活を送っていた。結局は自分が可愛いだけだったのだ。誰に何を言われようと、自分にはまだやれる、それを見抜けないお前らが悪い、と言い訳をしていた。だから私は可もなく不可もなくな存在にしかなれなかった。


でも、誰かしらに託していた。卒業アルバムを捲って、クラスの所をみて、私の写真をみて、ああ、そういえばこんな奴いたな、って思ってもらえるくらいのそのくらいの記憶でいいから、覚えていてほしいのだ。


だれか、私を。

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