第13話 交換条件、大抵不利益
色町♂密集区域の中をついていくこと数分、到着したのはそこら辺に転がってる店とあまり変わらない店。テンションは下がれど行かねばならぬ。深呼吸し、いざ魔窟の中へ。
「いらっしゃ~い♡ あ、な~んだアニーじゃない♡」
「何だとは何よっ、失礼しちゃうわね」
扉開けた途端見知らぬ世界へと――化け物がお出迎え。
オレの気分はさておき、化け物もとい赤黄青と色とりどりの化粧や髪型、衣装のオネエさんの他にも一般の人間がいて、オネエさま方に接待されていた。愚痴を言い甘えるなと怒られ、お酌を頼めば逆もまたあり、たぶんこのガールズ♂バーは無礼講の友達感覚で楽しく呑める店なのだろう。
今はこういう化けも、人たちが営む店が衰退の危機に陥ってると聞くし、そういう気を許してしまいそうな雰囲気の店は嫌いじゃないが、オレの趣味でもない。
オカマに連れられそれほど広くない店内の奥へ。すれ違いざま、「アニー、おかえり♡」と声をかけられていたので、この店の中では人気なのかもしれない。
「着いたわ、座ってちょ~だい♡」
言われるがまま座る。カクテルでいいわよね? と聞かれたので適当に頷く。喜んで~♡ と居酒屋のノリでその場から一旦離れた。
立ち話もなんだからとはいえ、個室に連れ込まれ食べられるのかと思いきや、そこは店の端っこ。変な観葉植物が敷居となってはいるが、聞こうと思えば隣の席からも聞こえる場所。大丈夫なのだろうか?
「お・ま・た・せ♡」
お前なんて待ってねーよ、とツッコんでやりたいほど気持ち悪い口調だったが、そこはグッと堪え、話をすることにした。
「あら? 一口もつけてないけど、好みじゃなかったかしら?」
運ばれてきたカクテルはすごく真っ赤なおどろおどろしいものでしかも中ジョッキ。これはマグマと呼称されるものではないか、という疑念この際置いといて。
「そういえばあんた、兄貴兄貴って呼ばれてたけど、」
「兄貴じゃなくてアニーよっ! 乙女に対して男扱いなんて失礼よっ」
一瞬怒ったのだがすごく怖くて心臓止まるかと思った。
「そうそう、まだ自己紹介してなかったわね♡ あたしの名前は、アニー・K。気軽に姉貴とかお姉さんとか呼んじゃってくれちゃってOKよ♡」
「えと、倉科 大樹です」
「おいらは尾槍 啓三。みんなからはよく、おやっさんって呼ばれてる。で、そっちに寝てるのが長谷川 木立」
「坊やは大樹くん、おじさまは啓三さん、ダーリンは木立ちゃん……こだっちゃんね♡」
長谷川さんだけまるでマイリストに登録するかの如く強調していった。これほどオレじゃなくてよかったと思ったのは、学生時代先生に前へ出て簡単だけどオレには難しい問題解くのを当てられて以来だ。
「アニー・Kっていうからには外国人かなんかか? 確かに見えなくはないが」
化粧をしているのでどちらとも言えない感じになってる。
「そ・れ・は、源氏名ってやつよ♡ あたしは生粋の日本人。大和撫子なんだから♡」
大和撫子の意味わかっていってのか? 化け物とか筋肉隆々って意味じゃないぞ?
もうツッコみどころ満載のオカマにいちいち付き合ってたら、ホント身が持たないと思い、ここでようやく本題を切り出すことに。
「それでなんだが、兄貴に一つ頼みが」
「姉貴」
「それで兄貴に一つ」
「姉貴」
「……姐さんに頼みがあってきたんです」
「姉さん……悪くない響きね♡」
無表情の威圧に負けました。別にごり押ししたかったわけでもないので呼び方など別にどうでもいいのだが。
「で、頼みというのは何かしら?」
「その前においらから聞きたいことがあるんだが」
おやっさんが喋った⁉ ビビッて口が開けないんだと思った、ことはさておき。
「ねえちゃんはどこまでおいらたちの事情、魔法使いについて知ってる?」
「そうねえ、あの乙女力がなぜか周りではあたししか使えないっぽくて、あたしが撃った♂っぽい人じゃないっぽいのがあたしの邪魔をする敵っぽいので戦ってたっぽい感じ♡」
ぽいぽい、うるせえな。どこかの艦〇娘か?
「知ってるのはそれだけか? 何の事情も知らず孤軍奮闘してる感じか?」
「ええ、なんの情事も知らないわ♡」
情事じゃねーし。エロワードに置き換えるな、と心の中でツッコんだところでオレにもある疑問が浮かんだ。
「そういやあさっき姐さんが、周りではあたししか使えない~っていってたけど、どういうことだ?」
「欲求不満、反逆心、運、才能、遺伝……いろんな説があり、天命だとか抜かしやがる輩がいるもいるが、一つだけ確実に言えんのは魔法使いになれるのは童貞だけ、っつーこったな」
童貞……いつ聞いてもあまりいい気分じゃない言葉。はっ、となり姐さんが不快な気分になってないかと顔を覗いてみると、
「あたしの知らない情事、教えてくださるか・し・ら♡」
とくに変わった様子はなかった。よかった交渉前から相手を怒らせなくて。
「そんじゃ、一から教えますか。こういうのは長谷川担当なんだが、寝ちまってるから今回はおいらから話そう」
少し長くなる首を回してから話を始める。
「まずはおいらたち魔法使いが戦ってる敵の話から――」
長くなるし、知っていたので割愛させてもらうことにします。
「――とまあ、大体こんな感じの事情があり、ここまであらすじもこんなもんよ」
「ふーん。あなたたちが一番強い幹部・核? っていうのを倒した実力者っていうことなの。ふーん♡」
どうかわからないが、好感触っぽい。あ、やべうつった。
おやっさんはこれが好機と交渉を始める。
「全部知ってもらったところで単刀直入にいうんだが、おいらたちの同士になってくれないか」
ワンコを一撃で倒す砲撃。あれが姐さんの魔法だっていうなら、そりゃあ大きな戦力となる。オレも寝てる長谷川さんも文句はないだろう。
「それが頼み?」
なぜか少し驚くように言う。これはもしかすると二つ返事で了承してくれるパターンかもしれない。
でも現実はスムーズにいくことを拒んでいるようで、
「そうねぇ、あーたたちのいう同士になってあげてもいいんだけど……交換条件があるわ♡」
「交換条件?」
あまりいい予感はしない。金か身体か精神的なものか、どちらにせよ苦労させられるの目に見えており、最悪交渉材料が見合わない可能性もあるのだが……、
「長谷川さんを差し出すっていうのはどうっすか?」
「おまっ、仲間を差し出すってどんだけ最低なんだよ」
「背に腹は代えられないって思わないかおやっさん。オレは出来る限り自分が痛い目を見ない選択をしたいんだ!」
「最低なことを最高な声で叫ぶなよ。ちょっち共感できるから泣けるぞ」
誰だって自分が大切だ。オレから言わせりゃあ、大切なもののため~なんていってるやつほど、いざとなったら自分を最優先に動く。それは悪いことではなく自然なこと。大切な人のためではなく、大切な人を思う自分の幸せのため、それが真実。結局それは依存でしかなく、故に自分の幸せが変われば守るものも変わる、ということになる。
「それ……魅力的な提案ね♡」
長谷川さんに罪悪感を覚えなくもないが、これならいけると思った。だが、
「でも残念。あたしがお願いする交換条件で・な・い・と、OKは出せないわ♡」
恍惚な笑みを浮かべていただけに交渉成立かと思ったが、その頑なさはよっぽどの条件なんだろう。
「で、交換条件ってなんなんだ?」
なぜかそこで笑みを深める。どうしようもなく嫌な予感がした。
「あたしの出す交換条件、それは……、」
「あたしを、熱くさせて♡」
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