そして一日が始まる

 校門を出てからも一言も話してこない彼女。


 俺たちはただただ、夕暮れに染まる道を静かに進んでいく――

 

 

「…………」

 

 

「…………なんか言えよ」



 この空気に耐えられなくなった俺は話しかける。そこまでスピードは出ていない。風の音にはかき消されていないだろう。

 

 それでも、透子は何も話してくれない。仕方ないので俺から話題を振った。

 

 

「その、――今日は成功したのか?」



 ややあってから、

 


「……まあ、誰かさんのおかげで」



「それについての感想は」


「そうだな……」




「ありがとう、とだけ言っておこう」




 結局、その言葉を最後にしてお互いの家の前に着いても何も話さなかった――


 *

 

 そんなこんなで動乱の十七日、金曜日を終え日曜日。いつものようにだらだらとして過ごす。

 ――まあ、やることもないしね! (勉学はどうしたオイ)


 録画した深夜アニメを見ながらコーラを飲み、ポテチを食す。この時がたまらなく生きている――と感じる俺はもう終わってるのかもしれないな……

 

 忙しいようで忙しくなかったようでいろいろあった一週間。明日からはまたあいつに振り回されるんだろうな、と思いつつ一時の休息を堪能するのであった。

 

 



 ……それは突然、現れた。

 

 

 気持ちよく布団で寝ていた俺は、突然何者かに布団をひっぺがされ、ごろごろと転がった。何があったのかわからないまま――そう、わからないまま強制的に起こされた。

 

 その事実に気がついた俺は最上級の不機嫌をもってして目を開いた――

 

 

 

 水色と白のストライプ。……うーん、これは、

 

 

 これは女の子の――

 

 

「ちょ、ちょっと!――何見てんだー!」


 聞き覚えのある声。と同時に目の前の景色が回る。

 

 

 まだ眠気に支配されている思考が止まると同時に、意識は沈んでいった――

 

 

 *

 

 

「ほんとにすまん……」

 

 

 視線の先には正座した透子。いや、俺が正座させたんだけど。

 

 

「お前、今俺に何をした? ――俺には理不尽に蹴られたようにしか思えないんだが……」


「いや、だって涼真が……」


「あ゛? もっと起こし方ってもんがあるだろうが」


「本当に申し訳ない」



「あれは不慮の事故だった。俺は何にも見てない。天地に誓って縞パンなんて――」



 神速の拳が飛んできた。透子は外見はそこそこ綺麗だが、中身はポンコツという典型的なやつだからほんとに困る。





「もうお互い様ってことにしとこう」


 お互い頷き合う。どうやら気持ちは同じらしい。

 

 ――そうして、俺達の朝は始まった。

 

 

 

 

「ってそうじゃねえ、なんで俺の部屋にお前がいるんだよ!?」


 ひりひりする頰を撫でながらツッコむ。マジで痛え。


「起こしに来ただけだが?」



 いや、結構疎遠というか離れてた幼なじみがいきなり部屋にいるのは”だけ”では済まされないだろ……

 

 

「いやぁ、あれから五年になるか……涼真の部屋も昔とは変わったなぁ」



「……昔は昔だよ。で、どういう風の吹き回しなんだ」



「それぐらい気がついたらどうなんだ? ――ほら、もうそろそろ食べないと遅刻するぞ?」


 ……久しぶりに透子の笑顔を見た気がする。



「着替えるから出て行ってくれ。幼なじみでも恥ずかしい」


 私にあんな恥ずかしいことをさせておいて! ――という透子を無理やり部屋の外に押し出して、俺は制服に着替え始めるのだった。

 

 

 

 

 ……ああ、また騒々しい日常の始まりか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絶対領域を確保せよ! ホウボウ @closecombat

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ