決戦。

 さて、風紀委員長の乱入(?)騒ぎなどもあったものの、おおむね順調に十七日を迎えた。


 例のごとく俺はなにもしていないのだが。



 ……何もしてないのになんで投票の時にだけ顔出さなきゃならんのだ。


「それが涼真の仕事だからだよ」


 そこ! 心を見透かさない!……あいかわらず、といったところだな。透子は。


「さて、今日は決戦の日だ。織原、園田、よく頑張ってくれた。その成果を、いまこそ示すのだ――!」


「はい!」


「はい!」



 ……狂信的な透子信者たちは置いておくとして、俺の眼からしても彼らはよく働き、透子の期待以上の成果を見せた。動機が不純すぎようと結果が良ければそれでいいのだ。



「それと、涼真――私のバックアップ、頼んだからな」


「へいへい」



 そんなこんなで、臨時生徒総会が始まった――



 *



 ……その論争は苛烈を極めた。


 いくらか態度が柔らかくなったとはいえ、春日率いる風紀委員は俺たちの計画、データ、その他もろもろに至るまで反論を繰り返してきた。

 その勢いは議論というか話し合いが進まないために、総会の一時中断を余儀なくされたほどだった。




 それでも、透子は引かなかった。



 織原はデータを出し続け、園田はそれに裏付けられた理論を展開する――


 一方の風紀委員は、春日を主軸として校則改定の必要性がないことをしきりに説く――



 ……どこまでも、平行線だった。



 飽きてきた生徒は寝たり、携帯をいじりはじめたりと、生徒総会もぐだぐだになりはじめ、皆が疲れていた。




 だから言った。





「はいはーい、両者そこまでー」

 と。




「…………は?」


「……何を?」



 続ける。


「いいか、お前らは何のためにこの議論を始めた? 出発点は?」


「『生徒のためだ』」




 ――だから、言ってやった。




「今の議論、確かに必要なことだろう。でも、今この場であーだこーだ言うことが必ずしも生徒のためになっているか?」


「……それは、投票が終わって結果が出てからでも遅くないんじゃないか?」



 …………沈黙。



「つまり、涼真はこう言いたいんだな――『今は投票だけに集中しろ』と」


「まあ、間違っちゃいないが少し違う。とりあえずこれは『仮施行』のさいけつなんだろ? とりあえず仮施行してからでも今の議論は遅くないんじゃないのか?」



「ふむ……それについては私は賛成だ」


「……そう、ですね」



 透子、春日の両名の同意が得られたので、進める。



「ということだ。生徒の皆も疲れているだろう。俺も疲れてる。正直早く終わりたい」



「――でも、この投票だけはしてくれ。これからを変える決断だからだ」




 そう言い、全員に投票用紙を配りながら、投票箱の設置をする。


 俺の仕事は、最初からこれだったんだろうな……まあ、今までサボってた分のつけだと思うことにしよう。


「……なあ、これって誰が集計するんだ?」


「公平性を保つため、学校側がするらしい。もちろん、途中経過も見せてくれるそうだ」


「それならよかった。人事を尽くして天命を待つ、といったところか」


「かっこつけんなよ、涼真」


 疲れた顔で笑う透子。


 かくして、臨時の生徒総会、および校則改定の仮施行についての討論・投票は幕を閉じた――



 *



「で、結果は?」


「昼の放送で発表らしい」


 なぜかは分からんが、委員全員が生徒会室に集まっていた。


「まあ、全校放送ですからねー、どこで聞いてもよかったんですけど」


「その……やっぱりここで準備しましたし……」



 ……と、かくいう俺は透子に引っ張られてきただけなんだけど。


「我々の今までの成果が皆に届いたか――その努力が実ったかが分かるんだ。やはりここで聞くのがよいかと思ってな」


 だからといって俺を引っ張ってくるな。



 ジジッっというノイズの後、スピーカーから声が聞こえ出す。



「それでは、臨時生徒総会の投票結果の発表です――」






「改定に賛成が五十六パーセント、反対が四十パーセントでした」




「よって、校則の仮施行が決定しました。これで、発表を終わります」




 その時、歓声が上がった。



 それは校舎のあちこちからあがり、だんだんと大きくなっていった――



 それは生徒会室も例外ではない。



「皆、よく頑張ってくれた……本当にありがとう!」


「いえ、これからですよ」


「そうですよ!」



 ……ほんと、青春してるなぁ。




 そうして、本当に幕は閉じた。




 *



 終礼も終わり、総会の後片付けもほどほどに済ませ、自転車のロックを解除する。長年使っているおかげかリングのロックが軋んでいるが、これを使うのも長くないだろうということで放置している。



「涼真」


 ――予感はしていたが、やはり校門で待ち伏せされていたか。



 なんだかいつも一緒に帰っていたようにも感じる。人の感覚なんてあてになるものではないのだけど。


 そんなことを思いながらも、俺は声の主、透子へとハンドルを向けた――

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