効果はてきめん。

「それでだな、春日よ」


「いきなり呼び捨て?!」


「わたしたちの主張はたぶん一生平行線をたどるだろう。それは、お互いの立場が相容れない場所にあるからだ。それは分かるよな?」


「ええ、でもそれを修正するのが私の仕事ですので」


「そうだ。そして、春日の立ち位置をこちらに持ってくるのが私たち『生徒会』の仕事なんだ――」


 だから、と言葉をつなげる。


「君には少し体験してもらおう。そのスカートはいささか長すぎる」



 これが、オペレーション"Z"(絶対領域)か……!


 理解した俺は、二人の様子を見守る――



「こ、これは校則通りの長さです! 文句ないでしょう!」


「まあまあ、体験してみるだけでいいから――」


 そんな問答を十分もする頃には、春日さんも折れてしまい、結局試作品として作った短いスカートと二―ソックスを履くことになっていた。

 風紀委員も女の子、ということだろう。



「それじゃ、着替えさせるから男子諸君は出て行ってくれ」


 そう言うと、透子は俺たちを生徒会室から放り出した。



「先輩、分かってますか? この作戦のこと――」


「昨日は顔出してないから知らん」


「デスヨネー」



 ……分かってたなら聞くな、園田よ。



「これ、僕たちが重要な立ち位置にあることは理解していますか?」



「は?」



「だって、相手は女の子。容姿のことをほめられれば悪い気はしません」


 なるほど


「要は俺たちがうまくほめろと、そういうことなんだな」


「そういうことです」



 困ったなぁ……高スペックな奴(誰とは言わないが)が近くにいるとそこらへんの感覚がマヒしてしまう。


 どうやってほめればいいか、思案しているうちに中からお呼びがかかる。




 どうやら、仕事のようだ――


 *


「どうだ、これがあの春日だよ――」


 目の前にいるのは、美少女と言っても差し支えのない女の子。

 いつもの肌の見えないスカートから一転、二―ソックスとスカートに挟まれた「絶対領域」が眩しい。


「その、あんまりジロジロ見ないでくれ……」


 いつもとは打って変わって弱気になる彼女を無視して、舐めるように見つめる。


 みずみずしく、水を珠のようにはじきそうなほどきめの細かい白い肌。黒の二―ソックス。そして少し短めのスカート――「女の子」というイメージを与えるには十分すぎる「武器」だった。だから――


「春日さん、かわいいね」


 と言った。



 すべて計算づくで、だ。


 思惑通り、顔を真っ赤に染めながら


「ばか! こんなの……こんなの絶対に認めないぞ……こんな辱め……」


 こういうのってあれだよ、ツンデレってやつだから。嬉しいんだよ。


 が、周りは


「涼真……よくそんなこと真顔で言えるな……」


「先輩、マジぱねぇっす……」


 と蔑みの眼を向けてきた。

 計画を成功させるためだ、仕方ないんだよ!



 そうして、「辱め」を受けた彼女はそそくさと着がえ生徒会室を後にした。

 後に残ったのは底に少しだけ残った日本茶と洗い物だった。全部俺が洗い物するのかよ……


 *


 オペレーション"Z"を終え、家路に着こうと自転車にまたがり、校門を出ようとすると呼びかけられる。


「なんだ、透子か」


「私で悪いか」


「まあいいけど……乗ってくんだろ?」


 ああ、という彼女。

 そうして、背中に彼女の温もりを感じながら僕は漕ぎだした。



「あのさ、さっきのはなんだったんだ?」


「さっきのって?」


「ほら――春日に『かわいいね』と言ったろう?」


 ああ、あれか――


「別に深い意味はないよ。透子の言う作戦がこういうことだろうな、って思っただけで」


「本当にそれだけか?」


「それだけだ」


 静かになった背中の彼女は、とりあえず納得してくれたように感じた――

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