嵐は突然に

「失礼します。風紀委員長の春日です」


 その言葉が、僕たち生徒会役員全員を凍りつかせた――


 ……まあ、予想通りだったのは俺だけだっただろう。



 春日 綾女あやめ。この晴風学園の風紀委員長にして秀才。

 顔立ちは整っており、少しキツく厳しい性格とも相まって生徒からの人気も高い。巷ではファンクラブも存在するらしく、過激なファンは彼女の御御足に踏まれるために日夜努力をしている――らしい。



「あの、えっと、どちら様でしょうか」


 透子さーん? ちゃんと人の話聞きましょうねー?


! 何度も言わせないでください!」


 ほら怒った。こういうタイプは怒らせると鎮めるのが面倒だし、だいたい俺がその役に当てられるから嫌なんだよ。


「すまん、解放感に浸っていて気がつかなかった……それで要件はなんだ?」



「単刀直入に言います。風紀委員は『女子制服の校則改定』について反対です」



「なぜ? 理由は?」


「まず理由が適当すぎます。身だしなみを整えさせたいだけなら、私たちの活動の幅と権限を大きくしてくれればよいのでは?」


「それに、説明に使っていたあのデータ。ソースが不明瞭でいまいち信憑性が高くないです」


 ソースソースうるせえな。俺はつけてみそかけてみそが好きなんだよ。


「それ以外にも色々ありますが、とりあえず今説明した二点についての回答をお願いします。期限はそうですね――明後日までで良いですか?」


「構わん」


「では、お忙しいところ邪魔してすいませんでした。それでは」



 そう言って彼女は生徒会室から出て行く。それと同時に張り詰めていた空気が緩んだ。



「はあ、予想はしてたけどやっぱ来たか」


「そうだな。これはオペレーションZの発動が必要か?」


「そうですね……時と場合によりますが、覚悟しておいたほうが良いかと」


「ふぅ……」



 ――ああ、なんか青春してるな。



「まあ少し仕事が増えたが、今日のところはお疲れ様。それでは、解散!」


 そうして、嵐のような一日が終わった。


 *


「凉真!」


 誰かに呼び止められる。


 その声には聞き覚えがあり、恐る恐る振り向くと――案の定、予想が当たっていた。当てたくなかったけど。



「なんだよ、透子。お前電車通学だったろ」


「自転車、乗せてってくれ」


「生徒会長様がそんなことして良いのか?」


「良いんだよ、今日は」


 ……そんなもんなのか?


 よくあるママチャリを通学のアシにしているので、二人乗りはそこまで苦じゃない。


「せいぜい振り落されんなよ」


「凉真こそ重さに耐えかねてペダルが漕げなくなる、なんてことにならないでくれ」


 そんな風に笑い合いながらも、俺たちは一緒に校門を抜けた――




 透子の家は俺の家の隣。幼稚園から小中高と同じ学校に通うのも必然のようなものだった。

 一番変わったのは彼女の容姿だったかもしれない。昔よりも、その、きれいに……



「ちょっと、全然進んでないじゃないか」


「るせえ! 二人乗りなんか滅多にしないんだよ」


「そうだよな、凉真には後ろに乗せる女の子なんか私ぐらいしかいないもんな(笑)」


「……今すぐ引きずり下ろすぞ」


「私は女子高生だぞ! そんなことをしてみろ! 八つ裂きにしてやるわ」


「どこがかよわいんだよ……」


 やっぱ見直して損した。こいつは一生こんな風なんだろう、たぶん。

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