04:魔法講座一時間目
「と、いうわけでお前が出来そうなことを探さなきゃなんなくなった」
朝食をゼルとカルビアと共にとった後、アデルは部屋に戻ってきて朝に行われていたらしい会議の内容をリリカに説明していた。
「ありがとうございます。こんな私のために……」
「……お前の敬語は一生治らなそうだな。まぁそんなに簡単に治るわけもねぇか」
アデルは頭をポリポリと搔き、少し残念そうな顔を見せるがすぐに気を取り直して話を続ける。
「それでな、お前は転生者だしとりあえず魔法を勉強してみろ。転生者ならそこそこの魔力はあるはずだろ」
「わかりました。それではご指導よろしくお願いしますアデルさん」
リリカはそういってペコリと頭を下げる。
確かにリリカは転生者だ。しかし奴隷として生きてきたリリカには、たとえ魔力があったとしても魔法の使い方を知らない。更にいきなり勉強しろと言われても、この世界には所謂教科書というものがほとんど存在しない。紙は貴重で高価なため、人にものを教えるようなことに対してはあまり使われないのだ。
ゆえに、何かを学ぶときは基本的に人から教えてもらうのがこの世界の常識だ。つまり、リリカの知り合いの中から魔法を教えられそうな人に教えを乞う必要があるということ。
そこでリリカはアデルに頼むことにした。空戦部隊の隊長だと言っていたし魔法の扱いもさぞかし慣れているのだろう。それにリリカをここに連れてきた張本人でもあるわけだし一番頼るのにふさわしい相手だろう。
「あーっとだな……俺は無理だ。すまん」
しかし当の本人はすまなそうな顔をしてリリカの要求を拒んだ。
「す、すみません!アデルさん、忙しいですもんね!」
それもそうだ。よく考えてみれば隊長がリリカなどに構っている暇など本当はあるはずがないのだ。
きっと忙しい中、リリカがここにいられるように無理に時間を割いてくれているんだ。それだけでも感謝しなければ。
まぁ本当はアデルはこれっぽっちも忙しくなどないのだが。
「いやそういうことじゃなくてな?えっとだな……」
「アデル兄ちゃん、女の子の頼みの一つも聞けねぇとかダッセー!」
「……カッコ悪い」
アデルが言い渋っていると二人の子供がヤジを飛ばしてきた。
「うっせぇクソガキ共!お前らは知ってんだろ!どっかいってやがれ!」
アデルが怒鳴ると子供たちはわーっ、アデルがおこったー!と部屋の外に逃げて行ってしまった。
仲がいいんだな、私もあんな風に気兼ねなくふざけあえる相手が欲しかったなと、リリカは少しだけそう思った。
「ったくあいつらめ……。話を戻すぞ?さっきも言ったが俺は無理だ。俺は『失効』の魔法しか使えねぇんだ。龍は確かに魔法は使えねぇけど半分は人間なんだから使えてもいいと思うんだけどな。だからお前の先生はサレウスだ。さっき俺が頼んどいたからサレウスが部屋で待ってると思うぜ。あんまり待たせんのもわりぃからさっさと行くぞ」
「は、はい」
突然のことに少し呆然としてしまったがすぐに意識を取り戻し、アデルの後ろをついてサレウスのもとへ向かった。
道中、悪魔のおばさんに兄妹みたいで楽しそうねぇ、と茶化されたがアデルがうるせぇババァ!と一蹴していた。
アデルの顔が少し赤くなっていたのは怒りによるものだろうか。それほど兄妹だとからかわれるのが嫌だったのかと思うと、申し訳なくなった。
「おや、来ましたか。ならばさっそく始めることにしましょうか。時間は有限です」
「二人とも遅ーい!」
「……遅ーい」
サレウスの部屋に着くと、サレウスといつもの兄妹が待っていた。
「なんでいるんだよお前ら……」
「別にいいだろー?」
「……差別反対」
まぁ子供達にはここは暇すぎるのだろう。なんせ人間との闘いをするためだけの城だ。子供が楽しいことなど何一つありはしない。
そんな退屈なここでは仲間になりそうな人間などという珍しいものは子供たちにとって格好の暇つぶしの材料となる。
そんなことは親であるサレウスが一番理解している。だからサレウスも止めようとはしない。
「ほらアデル。だいたいあなたも来る必要はないでしょう?その子たちと留守番してるかリリカさんの魔法の練習に皆で付き合うのか早く選びなさい」
「……わーったよ」
アデルは渋々、といった様子で子供たちの参加を受け入れた。
サレウスが練習の場として選んだのは城内にある闘技場だった。
まぁまぁの広さがあり、魔法が暴発しても闘技場の周囲に貼ってある結界で被害を抑えられる。
まぁ『失効』が使えるアデルがいればその心配は必要ないのだが。
闘技場の結界には3つの効果がある。
魔法の無効化。聖なるものの拒絶。そして闘技場内の自動修復だ。
魔法の無効化は闘技場内で使われた魔法が場外に影響を起こさないようにするためのものだ。
聖なるものの拒絶、というのはよくわかっていない。昔から伝えられている効果の一つなのでそこら辺は曖昧である。例えば人間やエルフなど悪魔以外の種族が入っても特に何も起きない。
そして最後の闘技場内の自動修復は、戦闘などで荒れた闘技場内を自動的に修復するというものだ。だいたい3時間くらいで元通りになり、結構便利だ。
さて、4人はその闘技場に足を踏み入れた。サレウス先生の講義の始まりである。
「それではリリカさん。始めましょうか」
「はい」
リリカはいつもの無表情で返事をする。
「それではまず基本事項の確認です。とはいえここら辺は流石に常識なのでぱっぱと行きましょう。魔法には属性があるのは知っていますね?」
「火、水、風の三属性ですよね?」
「そうですね。まずはリリカさんの適応属性を調べてみましょうか。魔法の練習はそこを伸ばすのが一番早い」
サレウスはそう言うと、リリカの手をそっと掴む。
「私が魔力の操作の補助をします。リリカさんは指先に神経を集中させていてください」
リリカは言われた通りに掴まれた指先に集中する。
すると体の中の何かが一気に指先に集まっていく感覚を覚えた。
「おっ、これはなかなか……『基礎魔法』」
サレウスが何をしたのかリリカには分からなかったが、指先に熱を感じたかと思うと、指先から噴水のように勢いよく水が上に向かって吹き出てきた。
「リリカは水属性か」
「そのようですね。基本は今の感覚を掴むことです。リリカさんはもともと魔力が多いので最初から中級以上の魔法を練習してもよさそうですね。水属性でしたら、そうですね……『水剣』辺りがいいでしょうか。アデル、アルフィアさんを呼んできてくれますか?どうせなら同じ適応属性の人に教わった方がいいでしょう」
「あの女ったらし連れてきて大丈夫かよ……」
「心配しなくてもリリカさんは取られませんよ」
「別にそんなんじゃねぇけどよ……」
アデルはぶつくさ言いながら闘技場を出て、そのアルフィアさん、という人を呼びに行った。
「さて、アデルが戻ってくるまで魔法を発動させる練習をしましょうか。手順はまず先ほどのように指先に意識を集中させます。こうすることによって体中に散らばっている魔力を一点に集めます。そして発動させたい魔法の名前を口にします。これで集めた魔力に役割を持たせます。手順はこの二点だけです。まずは魔力を集めることに慣れましょう。先ほどは私が補助していましたが、次からは一人で出来るように」
「はい」
リリカはいつものように単調な返事をすると言われた通りに魔力を指先に集める練習を始める。
先ほどはサレウスの補助があったので簡単に成功したが、一人でやってみると案外難しい。さっきと同じ、何かが集まっていく感覚が感じられないのだ。
「コツは自分の中の魔力を感じることですよー」
サレウスは適当にアドバイスをしながらニコニコとリリカの練習風景を眺めている。
「こうだよねーちゃん、『火球』、『火球』、『火球』!」
リリカの隣でゼルが見本を見せようとポコポコと手から火の玉を生み出している。
カルビアはというと隅の方でボーっとその風景を見ている。あれで楽しんでいるのかは疑問だ。
リリカは割とすぐに魔力操作のコツをつかんだ。
もともとセンスはあったのだろう。アデルがアルフィアを連れて戻ってきた時には既に『基礎魔法』を扱えるまでには上達していた。
アデルが連れてきたアルフィアという人物は、この組織では珍しいエルフであり、救護隊の隊長であるらしい。長い金髪の男性だ。歳は20代前半くらいの様に見える
「君が噂のアデル君の側用人かい?うん、いいね。なかなか可愛いじゃないか。君、私のメイドさんにぶふぇっ!?何するんだいアデル君!」
アルフィアはセリフを言い終わる前にアデルにぶっ飛ばされていた。
「るっせぇ!余計なことすんなっつったろアルフィア!簡潔に、正確に、素早く教えてやれ!そしてさっさと帰れ!」
「ひどいなぁアデル君。独占欲の強い男の子は嫌われちゃうよ?」
「ぶっ飛ばすぞてめぇ……」
「はいはいそこまでですよ二人とも。リリカさんが困っているではないですか。ほら、アルフィアはリリカさんに魔法を教えてあげてください」
なぜか喧嘩が始まってしまったのでサレウスが仲裁に入る。
どうやらこの二人はあまり相性がよろしくないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます