女王の名

増黒 豊

第一章 宿り火

はじめに

 弥生時代、と聞けば知らぬ人はないであろう。

 しかしながらその時代の人びとがどのようにして生き、何を考え、そして死んで行ったのか知る術は極めて乏しい。


 大陸の文献にごくわずかに記述が見られるが、なにぶん遠い「海外」のこと、ざっくばらんな内容でしか描かれず、こんにちを生きる我々からすればミステリアスで、どこかそら寒く、好奇と憧憬の目で持って見られる時代ではないであろうか。


 この物語ではとくに弥生時代の中でも大陸の文献に「倭国大乱」と記述のある(それが政治上の乱れであるのか、軍事上の乱れであるのか定かではないがここではドラマ性を重視し軍事上の乱れとする)年代をテーマ、いや、モチーフに、想像をペンにしてそこに生きるひとびとを描き出してみたい。


 史実もヘッタクレもあったものではない時代のことを描くには考証などの面で大変な勇気がいることであるが、あくまでフィクション、「おはなし」として見守って頂きたい。


 弥生時代という呼称はもちろん後年になってから学者先生方が便宜上決めたものであり(なぜその名になったかは歴史の講義ではないので省く)、言わずもがなそこに生きるひとびとにとっては「今」である。


 その「今」という不可解な、生物的な、常態のないものを、持てる勇気と想像力の限りを尽くし作り出す。

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