第47話 不老不死は辛いよ
「……どこまで行くのよ?」
てっきり街の近くだと思っていたのだが、馬車は街道をひたすら進んで行く。もう半日も経っているだろうか……。
「もう少しです。お待ちを」
モヒカン野郎の1人がそう言うと同時に、馬車は街道を外れて荒野を移動し始める。この辺りはクルップ山脈の麓で、岩や砂しかない場所のはずだが……。
「なんじゃあれ!?」
荒野のど真ん中に、あからさまに不自然な神殿のような建物が建っていた。どういう趣味しているんだか……。馬車はその建物の入り口に横付けした。
「こちらです」
モヒカン野郎たちに前後左右を固められて、その神殿のような建物の中を歩く。所々絵画が飾ってあったり、花が一輪飾ってあったり、妙な所で気が利いていて、なんだか無性に腹が立つ!!
建物の中を歩くことしばし、無駄に広いホールのような部屋に出た。
「しっ、今ボスは書を嗜んでいる。もう少し待たれよ」
私たちはそこで足止めを食った。ホールの中央辺りでこれまた筋骨隆々のオッサンはちみっこい半紙に何かを書いている。モヒカン特盛りの中、コイツだけはなぜかツーブロックに髪の毛をセットしていた。まあ、どうでもいいけど……。
「……出来た!!」
オッサンはこちらに向けて半紙を掲げて見せた。エライ達筆で読むのに苦労したが、そこには「愛」と書かれていた。
「……」
ぶっとばしたろか。コイツ。
「で、なんの用なの?」
爆発魔法を放ちたくなるのを堪えつつ、私はツーブロックオヤジに問いかけた。
「ああ、すまんな。何度も総合医療センターに書状を送ったのだが、往診は受け付けていないと聞いてな。少々手荒な真似を取らせてもらった」
「往診って事は病人? ならば、相手を間違えたわね。私は蘇生術士。魔法医じゃないわ」
私はフンと鼻を鳴らした。だったら、ガリレイ先生の出番だ。私の出る幕ではない。
「いや、蘇生術士でいいのだよ。わしなりに調べた結果……」
そこでオッサンは無駄にタメを作った。
「『不老不死』だ。蘇生術にはそういうものもあると聞いた!!」
私は思わずコケそうになった。また、なんていう恐るべきベタなものを……。
「確かにあるけど……あれは封印しているわ」
蘇生術の究極は「そもそも死なせない事」。つまり、未来永劫生きさせる術がある。もちろん、私はこれを使えるが……。
「あるのか!? ではさっそくワシに使ってくれ。ワシはこの国にとって必要な人間だ!!」
……な、なんだこの自信。どう考えても「いらない子」なのだが。
「絶対後悔するからやめなさい。警告はしたわよ」
「わしを不老不死にするなら、今後一切手を出さない。しないのであれば、迎えを送り続ける。ちょっとずつ人数を増やしながら……」
……うわぁ、鬱陶しい!!
「……分かった。そこまで言うならやってあげる。ただし、ろくな目に遭わないわよ。これは最後の警告ね」
すると、オッサンはうなずいた。
「もちろん、構わん。今すぐやってくれ!!」
はぁ、知らんぞ……。
「じゃあ、準備するからちょっと待って……」
あまり気が進まないが、毎日迎えが来るのはもっと嫌だ。私は床と壁に魔方陣を描いていく。血文字ではなく通常の手順だ。今回は蘇生ではないのだから。
「はい、そこに立って……」
私は魔方陣の中央にオッサンを誘導した。
「はい、なんかこうイケてると思うポーズ取って……」
ここで初めて違和感を覚えたのだろう。オッサンは一瞬怪訝な表情を浮かべたが、それでも何も言わずに間抜けなポーズを取る。
「はい、チーズ!!」
私が杖をトンと床に置くと、魔方陣が一瞬発光して全てが終わった。オッサンは動かない……いや、動けないはずだ。
「……蘇生術を使った『不老不死』は、『魂の固定化』なの。これ以上魂が劣化しないから死ぬことはなくなるけど、代わりにその場から動けなくなる。意識はあるけど動けない。警告はしたよね。ろくな目に遭わないって」
……そう、ただ歩くだけでも少しずつ魂は劣化していく。それを防いでしまうと、全く動けなくなるのだ。もう解除は出来ない。このオッサンは、このままここで世界の移ろいを見つめて行く事になる。例えこの建物が崩壊しても、強力な結界で守られているので関係なし。この間抜けなポーズのままで……。
その時だった、アラムを筆頭にした一団が突っ込んで来たアラム、エパデール、ダルメートはもちろん、リリスやセルシアまでいる。
「あー大丈夫。全部終わったから」
気色ばんだ全員を、私は手を上げて止めた。
「怪我はない?」
アラムが駆け寄ってきて、入念に私のボディチェックを始めた。
「……怪我する要素は1個もなかったわ。強いて言うなら、多少魔力を使っただけ」
私はそっとため息をついた。
「あーあ、また面倒で非道な術使っちゃって」
さすがにこういう事には詳しい。リリスが苦笑した。
「本人たっての希望よ。何度も警告はしたわ」
「なんかわからないけど、片付いているならよかった」
「うむ、流血はない方がいい」
エパデールとダルメートがそれぞれ言う中で、セルシアが真面目な顔で魔方陣を見ている。
「これ、蘇生術の一種ですよね。初めて見ますが……」
「ああ、これは外道の術だから覚えない方がいいわ。いや、覚えちゃダメ!!」
私はセルシアに釘を刺し、大きく伸びをした。
「さて、みんな帰るわよ。モヒカンさんたち、後は頼んだ」
こうして、私たちは建物の外に出たのだった。人の忠告は素直に聞くものである。
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