第46話 また事件
短い秋が終わり、いよいよ本格的な冬になった。白い息を吐きながら通りを歩き、いつも通りリリスをからかったあと、総合医療センターに向かう。ホテルを出てしばらく歩くと、いきなり1台の馬車が私の行き先を塞ぐような形で止まり、ワラワラと荷台から武装した人間が降りて来た。
「ふーん、なんの用か知らないけど、たった8人で私をどうこうしようと。あしらいが荒くなっても文句は言わないでね」
「……馬車に乗れ。手荒な真似はなるべくしたくない」
揃いもそろってモヒカンで、この寒いのに露出度高めの筋骨隆々とした男たちである。全員が剣……刀身が太く湾曲した青竜刀というやつを持っている。
「そんな抜き身の剣を向けておいて、手荒な真似はしたくない。フン、笑わせるわね」
私はそっと杖を構えた。同時に相手の力量を見る。……そこそこやるわね。まだ殺気こそ出していないが、それだけにこれは油断出来ない。警備兵は何をやっているのやら……。
「……街の人間に怪我人が出るぞ。大人しく言うことを聞いて欲しい」
……そう来たか。ここは街中。辺りには野次馬が集まってきている。ここで暴れたら、間違いなく被害が出るだろう。こんな時に限って、エパデールもダルメートもいない。別件で仕事に出ている。アラムは真っ直ぐ出勤しているはずだ。
「……何が目的?」
私は構えを崩さないまま聞いた。
「行けば分かる。だから……」
皆まで聞いてやる義理はない。私は「飛行」の魔法で空に上がった。バーカ、隠れて呪文唱えていたんだよーだ!!
「さて……うおっ!?」
いきなり真っ赤な光線が私をかすめた。見ると、これまたモヒカン野郎集団がこちらに接近してきている。数は20名程か……これはちとヤバいかも。
「こうなったら、やったらぁ!!」
ここは空。街に被害を与える事は最小限で済むだろう。私は数少ない攻撃魔法である爆発を大出血サービスした。しかし、モヒカン軍団は顔色1つ変えずに接近してくる。マジか!?
私はその場から高速で逃げ出した。城下街を飛び越え、枯れ草で抹茶色になった草原上空へ。「探索」の魔法で確認したが、20個の真っ赤な点が迫って来る。もしかして、速さには定評のある私より早い? 私は大きく空にループを描いた。その頂点付近で一気に急降下して、モヒカン軍団のど真ん中を体当たりで抜ける。
「あべし!!」
なんか特徴的な言葉を発しながら、3人ほど叩き落とされて落ちて行く。残り17人……死ぬ!!
その時だった。「探査」の魔法が街の方から高速接近してくる何かを捉えた。見ると、味方を示す青い光球が打ち上げられている。
「全く、何やってるのよ。天下のシンシア様が!!」
あっという間に私に並んだのは、他でもないリリスだった。しかし、何かに乗っている。見たくはないが見てしまう。それは、高速飛行するゾンビだった。
「あのさ、来てもらってなんだけど、その乗ってるのって……」
「ああ、この子? 街の墓地で眠っていた手練れの魔法使いよ。白骨化していなくて良かったわ。スケルトンよりいいでしょ?」
……どっちもどっちだけどね。ぶっちゃけ。
「さて、話しはあと。ちゃちゃっとやっつけるわよ。汚物は消毒だぁぁぁ!!」
リリスが操る空飛ぶゾンビは、いきなり巨大な高位爆発魔法を放った。どっちかって言うと、こっちが汚物な気がするが、いずれにしても助かった。数を半数ほどに減らしたモヒカン軍団だが、それにも動じず攻めてくる。私は杖で適当なヤツをぶっ叩き、飛行ゾンビは纏めて粉砕にかかる。なかなかに手間が掛かったが、やがて空飛ぶモヒカン軍団は全滅した。私はリリスとサムズ・アップを交わす。
「さて、街に戻りましょうか。ところで、その飛行ゾンビどうするの?」
私は恐る恐る聞いた。
「そうねぇ、焼いちゃうしかないかな。街中で暴れられても困るし……」
「……」
まあ、リリスの言うことも分かるが、何とも不憫なゾンビである。
「じゃあ、ここで燃やしちゃうわね。とりあえず、地面に降りて……」
私とリリスは地面に降りた。私は火炎系の攻撃魔法は初歩の爆発魔法しか使えない。ということは……。
「さて、ご苦労様。ゆっくり休んでね」
リリスの制御に従い、ゾンビは強力な火炎魔法を唱えた。自らを焼くために……。
「なんか、可哀想ね……」
さすがに私はゾンビに同情してしまった。不憫過ぎる。
「こんなこと気にしていたら、死霊術士なんてやってられないわよ。まあ、心が痛まないかと言われたら、ちょっと考えちゃうけどね」
リリスは苦笑した。
「まあ、いいわ。それにしても、なんか火勢が強くない? どんどん延焼してるけど……」
辺り一面はカラカラに乾燥した枯れ草。もちろん、よく燃える。
「あっ、そこまで考えてなかった……」
「アホ!!」
こうして、草原は近年希に見る大火災に発展したのだった。
「また、あんたたち……」
翌日、私はまたモヒカンの集団に囲まれていた。今度は10人。ちょっと増えた。
「何なのよもう。さすがにキレるわよ!!」
「頼むから馬車に乗って欲しい。悪いようにはしない」
出たこのセリフ。大体悪いようになるパターンだ。
「なんか嫌な予感するから嫌。大体、あんたらそんな格好で寒くないの?」
半ば呆れながら、私は軽口を返す。
「もちろん寒い。当たり前だろう。上半身はほぼ裸なのだから」
……寒いんだ。やっぱり。
「じゃあ、お家に帰って寝んねしてなさい。今なら半殺し。本気になったら、死ぬまで拷問して、蘇生させてまた拷問を繰り返すわよ!!」
我ながら非道である。外道とも言う。
「我々のボスが用事があるというのだ。同行してもわらねば毎日来るぞ。ちょっとずつ人数を増やして……」
……うわぁ、面倒臭い!!
「分かった。分かったわよ。一緒に行けばいいんでしょ!!」
これ以上つきまとわれるのも迷惑だ。私は素直に馬車に乗った。モヒカン頭たちも乗り、馬車は勢いよく街中を駆け抜けていく。今のところ拘束されたりはしていないが、この先どうだか……。ああ、アラムにはこっそりメモを「転送」しておいた。余計な心配を掛けないためと、なにかあった時の保険だ。
「さてと、何が出てくるか……楽しみね」
自分に言い聞かせるように、私はこっそりつぶやいたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます