第42話 リリス 再び
「……いい度胸してるわね」
「……よく言われる」
ここは総合医療センター診察室。ガリレイ先生が手当しているのは、あのリリスだった。
「シンシアよ。どうすれば、これほど強力な魔封じを……」
何でも治してしまうガリレイ先生だったが、私がリリスに施した魔封じはそう簡単に解除できないようだった。当たり前だ、そういうように施してある。
「ガリレイ先生、そのままでいいですよ。解除したらまた施さないといけないので……」
私は冷たくそう言い放った。リリスが再びここを訪れたのは、今から2日目だった。思いの外早く文字通りの「死の行進」は終わったようだ。ボロボロでこの街に入ってきた彼女をたまたま見かけ……まあ、仕方なく。本当に仕方なくここに運び込んだのだが、彼女が死霊術士たる所以の魔法が使えない事には落ち着かないらしく、毎日ここを訪れている。本当にいい度胸している。
「ふぅ、少し休憩だ。ここまで手こずったのは初めてだな……」
疲労の色を隠さず、ガリレイ先生は椅子に座った。今は休み時間だが、この調子ではさらに迷惑を掛けてしまう。
「……ったく、1つ約束して。少なくとも、私の目の前で死霊術は使わないって」
私はさりげなくベッドに近寄り、彼女の首にリボンのような物を巻いた。
「なにこれ?」
さすがに気になったか、それを外そうとしたリリスだったが外せない。力任せに外そうとしたら、首の骨が折れる方が先だろう。
「なんでもないわ。解呪に必要なものだから、そのままじっとしてなさい」
リリスは不満そうだったが、それでも黙ってベッドに横になる。私は横たわった彼女に手をかざした。自分が施した魔封じだ。当然ながら、あっという間に解除出来る。そして、施術は終わった。
「あはは、敵に塩を送るなんて甘ちゃんね。私が黙って……!!」
「はいはい」
私は簡単な呪文を唱えた。瞬間、彼女の首に巻いたリボンが怪しく光った。
「あ、あれっ!?」
魔封じ再び。うん、急造にしてはなかなかいい出来だ。
「ちょっと、なんで!?」
私の襟首を掴みながら、リリスが喚き散らした。
「あのさ、私がなんの保険も掛けないないで、ただ魔封じを解除すると思った? そのリボンはいつでも瞬時に切ったり発動させたり出来る。大人を甘く見ない事ね」
私はそう言ってニヤッと笑みを浮かべてやった。
「ああ、無理に外さない方が良いわよ。力任せなんて論外。下手に魔法で外そうとすれば、大爆発を起こすから」
私は淡々と語る。対するリリスは大騒ぎだ。
「ずるい!! これだから大人は!?」
ギャーギャー喚いたところで、私は適当にやり過ごす。猛獣には首輪を。鉄則だ。
「さて、今日も勉強会やらないとねぇ……」
もう彼女に興味はない。私は奥の蘇生室に行こうとしたのだが……。
「なによ、これじゃあなたの飼い犬じゃない!!」
「あら、賢いわね。その通りよ。ハウス!!」
私は強力な睡眠魔法を放った。瞬時にその場に沈むリリス。
「ふん、とんだ猛犬ね。よっと……」
私は力が抜けたリリスを担ぎ、蘇生室を通り越えて柩置き場に入った。
「そらよっと……」
もちろん、柩に放り混むわけではない。私は柩を分解して適当なサイズにして、いかにもという感じの犬小屋を作ってやった。それを蘇生室の片隅に置き、中にリリスを放り込む。もちろん、入り口に金網状のドアを付けておくことを忘れていない。
「さて、ここまでやっておけば大人しくなるかな。あと2日は起きない……」
「こらぁ、これはどういうつもりよ!!」
うおっ、バカな。もう起きるとは!! バケモノか!?
「あら、あなたには相応しい待遇だと思うけど。ポチ」
「誰がポチよ!! いい加減ここから出しなさい!!」
犬小屋の中で暴れまくるリリスだったが、私は「沈黙」の魔法を使った。少しは静かになるかと思ったのだが、声は封じてもどったんばったんうるさくて仕方がない。
「……焼いちゃうかな。このまま」
死霊術士が嫌いな私ではあったが、さすがにそれは可哀想だと思いとどまった。
「はぁ、また面倒なヤツが現れたわね……」
バッタンバッタン犬小屋の中でリリスが暴れる最中、私は弟子と共に勉強会を始めた……ええい、うるさい!!
受付でアラムがため息をつくのを目の端に捉えながら、私は無言で弟子たちの勉強会を始めた。
「蘇生術なんて勉強してるんじゃねぇ!!」
さっきの睡眠の魔法もそうだったが、どうやらリリスは魔法耐性が強いらしい。6時間は効くはずなのだが……。
「また本当に面倒臭いのが出現したわね……」
まあ、暇よりはいいか。そう思い込む事にして、私はとりあえず犬小屋を凍り漬けにしたのだった。爆砕しなかっただけありがたいと思って欲しい。
こうして、私の多難は始まったのだった。やれやれ……
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