第35話 楽しいお遊び

「アラデック教の教祖交代?」

 アラムがよく分からないという顔でそう言ってきた。

「うん、なんか教会が分裂しそうになって、代わったらしいよ」

 国教であるアラデック教もその組織の規模故に一枚岩ではなかったようで、影でこそこそしていた連中が一気に盛り上がったらしい。まあ、よく聞く話しではあるが、私たちも無関係ではないので始末が悪い。組織の中枢を守っていたあの警備隊が解散してしまったため、こうして新しい流れが生まれやすい環境になったとか。今度の教祖は蘇生に寛容ならいいなぁ。私が感じたのはこのくらいである。

「……で、さっきからずっと疑問なんだけど、なんで私はあなたに縛られているわけ?」

 そう、私はアラムに縛られていた。服を着たまま荷造り用の荒縄で……。

「ダルメートとエパデールにに教わったんだ。とにかくシンシアの心を縛れって。で、とりあえず体を縛ってみたんだけど……」

 ……アホかコイツは。

「で、縛ったあとで何するつもりだったのかしら? ん? 怒らないから話してごらん??」

「えっと、シンシアの額にすでに怒りマークが4つくらいあるんだけど……」

「いいから!!」

「……添い寝」

 ……

「ねぇ、知ってる? 蘇生術ってさ、簡単に効果をひっくり返せるの」

 嘘である。そんな事はない。しかし、アラムの顔色が真っ青になっていく。

「絶対ほどかない!! ほどいたら殺される!!」

 あーあ、ビビちゃってまぁ。

「ほら、いいわよ好きにして。ここまでしといて何もしないなんて、あーあ、奥さんかわいそー。心離れちゃおうかもねぇ……」

 とりあえず攻めてみる。さて、どんな反応するか……って!?

「ごめんなさーい!!」

 叫びながら、猛烈な勢いでキスしてきた……っていうか、すっ飛んできたアラムの顔面を私が顔面でブロックする形だ。はっきり言おう。痛いと!!

「ったく、なにするのよ!! 私もまだ読みが甘かったわ……」

 あんなもん、キスでもなんでもない。タダの頭突きだ。まあ、アラムらしいと言えばアラムらしいが……。

「で、謝る前にやる事あるんじゃない。いい加減この縄が鬱陶しいんだけど……」

 アラムが慌てて私の体を縛っていた縄をほどいたその瞬間、私は彼をベッドに押し倒し、服のポケットに入れてあった細長い缶詰の缶のような物を取り出した。

 それを剣を持つかのよう構え、右手親指の辺りにある大きな丸いボタンを押すと、ビシュッと音がして「光の刃」というべき物が現れた。これは「魔力ブレード」という、そこらの魔道具屋で普通に売っているものだが、魔力を直接物質化するという、何とも荒っぽいオモチャである。1回限りの使い捨てではあるが、なんか黒い音楽まで出してくれるし面白いので、大体いつも2個は持っている。

 そう、これはあくまでもオモチャ。通常なら斬られたところで害はない。とはいえ、私が使うと……。私はベッドをなぎ払った。ドバババとベッドが割け、くの字型に折れ曲がって羽毛が部屋の中に舞い散る。

「ひぇぇぇ!?」

 あわやという所を光の刃が抜け、まるで女の子のような悲鳴を上げるアラム。その顔は蒼白になっている。

「さて、楽しみましょうか。大人の遊びを♪」

 私はブンブンなる光の刃を構え、ニヤリと口角を上げたのだった。

 フフフ、この先は秘密ね。全ては進めないアラムが悪い。人の恋路に入っちゃダメよ。


「僕、もうお嫁にいけないよぅ」

 はい、お約束をありがとう。アラムよ。

「なにグズグズ言ってるのよ。そりゃまあ光の刃を(自主規制)した事は、私もやり過ぎたかなとは思うけどさぁ。(自主規制)するくらい、(自主規制)よりはマシでしょ?」

 まあ、一通り遊んだ私たちは、部屋の中でのんびり昼下がりの時間を過ごしていた。出会った頃に比べればずいぶん成長したアラムだが、私は相変わらず「お姉さん」のままである。

「オトナ、ナリタクナイ」

 ……やれやれ。

「あのさぁ、男らしさって腕っ節だけじゃないわよ。なんていうか、こうアラムには何かが決定的に足りないのよねぇ……」

「えー、だって僕はまだ8才……」

 ……言い訳無用!! 私は黙ってアラムにキスした。

「全く、年齢に逃げるな。私が困るわよ。これでも24なんだから!!」

 頑張ってるんだぞ。これでも!!

「やっぱり、しんどいよねぇ……」

「そうねぇ……」

 アラムと私それぞれつぶやき、お互い同時にため息をつく。

 しかし、無理でもなんでもやるしかない。いつまでも「弟」では、誰よりも私が困る。これでも私の「旦那」なのだ。

「それじゃ、今度は私の番ね!!」

「えぇぇぇぇ!?」

 私はアラムを無理矢理裸に剥いて、床に放り出されていた荒縄で手際よく縛り上げていいく。

「あのねぇ、あんたのはまともに縛れてないの。こういう道具を使うなら、こうして……」

「シンシア、なんで手慣れてるの!?」

 あっという間に芋虫のようになったアラムを踏んづけた。

「女の子の企業秘密よ。聞くだけ野暮ってもんさね!!」

 動けなくなったアラムを足の先で突いて遊びながら、私はどうしてやろうかと思案する。

 いっそ、このままほったらかしでもいいのだが……。

「なんかこう、もっと道具欲しいわね。ねぇ、アラム。あんたなんか道具持ってるでしょ?」

「ナイナイ、僕いい子だから……」

 ふーん……。

 ビシュ!!

「えええ、またそれぇ!?」

 アラムの悲鳴が響き渡る中、オモチャから流れる音が入り交じる。ダーダーダーダララアダララ~♪

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