第34話 待機蘇生解消
「ついに終わったか……」
ある休診日。私とセルシアは保管庫の遺体や死体全てを蘇生した。成功率は70%。異常とも言える数字だ。セルシアの改造蘇生術が功を奏したといってもいい。私1人ではこの値は出なかった。
「お疲れさまです」
テキパキとカルテ整理をしながら、セルシアが言った。
「はい、お疲れ。しばらくお休みね」
2人分のカルテなど整理するまでもない。セルシアは対応出来る最大数が8人まで増えた。やはり、魔力が桁外れに高いエルフだけの事はある。これで、いよいよ私がバックアップに回れる日も近くなった。
「そうですね。早く、新規受け入れが出来るようになればいいのですが……」
セルシアがため息を交えながら言った。
「うーん、教会がねぇ。色々とおちょくってはおいたけど、余計恨みを買いそうだったしなぁ」
カルテを棚に片付け、私もため息をついた。
「何やったんですか。もう!!」
セルシアがふくれっ面で言う。
「何もしてない……とは言わないけど、言うべき事を言っただけ。あとは勝手に自滅しただけよ」
これが私の認識だった。多分、間違えていないはずだ。
「そうですか/……まさか『喧嘩売った』とかないですよね?」
「売ってない売ってない……多分」
時と場合によっては、教祖の首でも取っていたかもしれない……とは言えない。
「……まあ、いいですけれど。では、今日の勤務は終わりですか?」
「そうね。今日は休診日だし、蘇生待ちもいないからこれで終わりね」
私の言葉にセルシアが一礼した。
「お疲れさまでした。戸締まりは私がやっておきますね」
「その前にちょっと手を見せて」
私はセルシアの右手を見た。案の定、切り過ぎて酷いことになっている。
「ちょっと待ってねぇ……」
私は白衣のポケットから魔法薬が入っている瓶を取り出し、口で栓をポンと開けた。
「ちょっと染みるわよ」
私はセルシアの手に魔法薬をかけた。
「いつっ!?」
セルシアの表情が歪んだ瞬間、私は回復魔法を唱えた。
「はい、終わり。これで大丈夫ね」
セルシアの手は綺麗に治っている。単に回復魔法だけでも良かったのだが、魔法薬を使う事でさらに修復の速さを増したのだ。その代わり……。
「な、なんか、痒いです!!」
綺麗に治った手をボリボリ掻き始めた。……そう、早く回復させればさせるほど、代償として痛みや痒みを伴うのが難点ではある。
「大丈夫。普通は30秒掛かるところを、12秒に短縮しただかけだから。ちょっと痒いのは順調に治っている証拠だから安心して」
「その時短、あまり意味がないようなあるような……。いえ、ありがとうございました」
複雑な表情でセルシアが頭を下げた。うーむ、あまり感謝されなかったか。改善の余地はありそうね。
「それじゃ、今度こそ私は帰るわね。後始末任せちゃって悪いけどよろしく」
「はい、お疲れさまでした!!」
セルシアの声に送られ、私は総合医療センターを出た。
「はーい、お疲れ」
例によってどこからともなくエパデールが現れ、私の脇に立った。
「エパデール、ちょっと付き合って」
「あら、恋の告白?」
思わずぶん殴りそうになった。勝てないけど。
「アホ、魔法薬屋に行きたいだけよ。材料が乏しくなっちゃってね」
魔法使いなら誰でも嗜むであろう魔法薬。それを専門にしている魔法薬師もいるが、私は魔法の補助に使っている程度だ。それでも材料がないと困るので、こうして定期的に買い出しに出ているのだ。
「別にいいわよ。私もたまには覗いておかないとね」
エパデールに異存がないなら、私はなんの問題もない。例によって城下街に繰り出し、いつも材料を買っている店に入った。
「おや、今日はボディーガードつきか。何を探しているんだい?」
店のオッチャンが声を掛けてきた。私は差し当たって必要な物を告げる。
「アーレイエキスなんて何に使うんだい? あれは扱いを間違えると爆発するぞ」
これはエパデールの注文だ。また、物騒な物を欲しがる。
「そこは任せておいて。その手の扱いは慣れているから」
エパデールが涼しい顔でそう言う。本当に、何に使うのやら……。こうして必要な物を揃え、私たちは再び城下街に出る。どこで襲われるか分からないので気は抜けない。とりあえずまっ過ぐ城に戻り、私は自室に入った。当たり前のようにアラムがベッドの上にいた。
「なんだか久々な気がするねぇ……」
アラムが苦笑しながらそう言った。
「確かに久々ね。最近忙しかったから……」
私は適当に答えつつ、買ってきた魔法薬の材料を床に下ろす。
「なにそれ?」
正式な魔法使いではないアラムにとって、これは見慣れないものだろう。
「魔法薬の材料よ。ちょっと待ってね。今パパッと作業しちゃうから……」
言いながら杖で部屋の床に小さな魔方陣を描き、魔法薬の生成を始める。といっても、特に器具を必要としない簡単なもの。小さな空の薬瓶を床にずらっと並べ、呪文を唱えてはい完成。大量の薬瓶には緑色の液体が詰まっていた。中でコポコポ泡が上がっているのがちょっと気色悪い。
「それ、何に効くの……?」
露骨に嫌そうな表情を浮かべつつ、アラムが言った。
「魔力増幅効果よ。専門の魔法薬師から見たら子供のオモチャみたいなものだけど、何もないよりはマシだから……」
言いながら、私は床の魔方陣を消した。
「へぇ、シンシアってそんな事も出来るんだ。じゃあ、媚薬……ぼきゅ!?」
私の左フックがアラムの顔面を捕らえ、変な声が聞こえた。
……まあ、作れなくはないけれど、なんか嫌だ。絶対嫌だ!!
「なんだ。ダルメートに色々教わったのに、試せないなんて……ケチ」
「ケチで結構好かれちゃ困る。ってか、あんたら何やってるのよ!!」
ったく、これだから男共は……。
「それはもちろん、シンシアに喜んでもらう……ぐほ!?」
今度は私のボディがモロに入り、ベッドの上で悶絶するアラム。この場ではっきり言っておく。女の子はそんなものオマケで、そういう行為を欲しているわけではないこと!!
そりゃまあ、たまには欲しくなる時もあるかもしれないが、万年発情期の男目線で語って欲しくない!!
「そんな余計な事はどうでもいいから、久々にゆっくり喋りましょ。最近どうよ……」
いちおう午後は私たちの時間だが、なんだかんだでなかなか顔を合わせるのは寝る前だけという、ちょっと寂しい状況だったのだ。
「どうって事はないよ。ダルメート直伝の技を使ったら、教官をボコボコにしちゃったくらいかな……」
いや、大した事ある。剣術を指導している教官といったら、言うまでもなく相当の使い手である。それをボコボコとは。
「多少は剣術の腕が上がったみたいね。今度エパデールと勝負してみる?」
私が聞くと、予想に反してアラムは顔を険しくした。
「エパデールとはやめておくよ。まだ、今の僕では相手にならないから」
……へぇ。相手の力量を分かるようになったか。進歩進歩。
「よし、よく見切った。ご褒美に膝枕してあげる」
私はベッドに上り、アラムをおいでと誘ってあげた。
「わーい、なんか久々だね。こういうの」
アラムが私の膝に頭を乗せ、静かに寝息を立て始めるまでそう時間は掛からなかった。
やれやれ、子供だけど子供なんだから……。
私はその頭をそっと撫でた。久々に落ち着いた時間。今の私には、これが最大のご褒美だった。
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