第29話 散歩へゴー!!

 私にボコボコにされたせいで、アラムの練習熱もやや下がったようだ。剣の練習は午前中だけにして、午後は私と過ごすようにしたようである。まあ、いい傾向だ。そんなわけで、午前中は総合医療センターで各種確認と軽症患者の治療。午後はアラムと過ごすというサイクルが出来上がった。

「城下街に行こう!!」

 ある日、アラムが急に言い出した。過去に刺された経験から、あえて忌避していたのだが……ちょうど新しい魔法の本も仕入れたいし、たまにはいいかな。

「じゃあ支度しないとね。護衛も付けないといけないだろうし/……」

「そのままでいいよ。シンシアって強いし、僕だってそれなりに訓練してるし」

 ……やれやれ、こういうのを慢心って言うんだぞ。

「だーめ、護衛はちゃんと付けないと……」

「いいのいいの。行こう!!」

 こうしてアラムに押し切られ、私たちは1階ホールに降りた。

「あれ、シンシアじゃん!!」

 そこで懐かしい……という程でもないが、まさかの再会があった。エパデールとダルメートだ。

「久しいな。元気そうで何よりだ」

 ダルメートの表情は変わらないが。まあ、こちらは以前通りだ。

「こんな場所でどうしたの?」

 1階ホールは誰でも入れるが、なんの用もなく2人が来るとは思えない。

「大した事じゃないわよ。国王から親書を託されただけ。教会の総本山宛てのね」

 瞬間、私は思わず身震いしてしまった。教会といえば蘇生について、微妙な立場にある私である。その親書ということは、当然それ絡みの確立が高いわけで……。

「なんなら一緒に来る? 退屈過ぎてアクビが出ちゃう依頼だから、話し相手が欲しかったのよ」

「わしからも頼む。こいつはうるさくてかなわん」

 ……じゃあ、なんでコンビ組んでるんだろ?

 そこが謎ではあったが、せっかくのお誘いである。暇つぶしにはちょうどいいだろう。例え行き先が教会の総本山であっても、さすがに命を取られるような事はない……はずだ。そんな事をしたら、さすがに国王様も黙ってはいない。

「アラム、どうする?」

 いちおう、私の旦那様に聞いてみる。

「いいじゃん。総本山までは徒歩で片道3日。高速馬車なら1日もあれば付くけど、気軽にというわけにはいかないしね。たまには散歩しないと」

 まあ、往復6日が散歩という言葉に相応しいかどうかは議論の余地があるが、戦闘訓練で汗を流しているアラムと違い、総合医療センターにしか行かない私は体が鈍ってしまう。

 私は2人の誘いを受ける事にした。こうして、私たちは城下街に出て、巨大な街門から街道に出たのだった。


 天気は快晴。絶好の徒歩日よりだ。私たちはサクサク進んでいたが……。

「……シンシア。気がついてる?」

 エパデールがそっと聞いて来た。

「もちろん、背後に2人。右と左に1人ずつ。合計4人ね」

「さすが」

 私だってそれなりの勘はある。気配は上手く消しているが、残念ながら私の「髭」はちゃんとキャッチしている。

「ねぇ、なんの話し?」

 きょとんとした顔で、アラムが聞いて来た。はぁ……。

「だいぶいい顔になったが、まだまだだな。少年」

 私の台詞をダルメートが代弁してくれた。

「私たちは4人。1人1殺よ……」

 エパデールがこそっと物騒な事を言う。

「私が爆発魔法で仕掛けるわ。怯んだ所をボコボコにすればいい。命までは取らなくていいわ。まあ、どうせ放置しておけば魔物にやられるけど……」

「へぇー、あなたもなかなかえげつないわね」

「フフフ……」

 女2人で黒い話しをしている間、男性陣は何も言わなかった。ダルメートは元々無口だが、アラムまで黙っている。フッ、まだ甘いわね。

「……じゃあ、いくよ!!」

 エパデールの言葉と共に、私は杖を振りかざした。4つの爆発が巻き起こる。そして、アラムを除いた3人がそれぞれの方向に散る。エパデールは右、ダルメートは左、私は背後の2人の処理に掛かる。遅ればせながらアラムが私の横に立った時、すでに戦闘とも呼べない戦闘は終わっていた。

「アラム、なにを修行しているのかな?」

 私は意地悪く聞いてやる。

「ううう……」

 アラムは頭を抱えてしまった。

「はーい、相変わらずいい腕してるわね」

 エパデールが気絶した追跡者を引きずりながら、こちらにやってきた。

「フン、斧の錆にもならん」

 こちらはダルメートだ。やはり、1人引きずってくる。そして街道に並べ、改めて気絶した追跡者を検分する。どいつもこいつも似たような顔と服を着た男だが、胸の辺りに何とも形容しがたい形をした紋章が付いている。

「あー、やっぱり教会関係者ね」

 エパデールがやれやれと言わんばかりに言った。

「教会?」

 私が聞き返すと、エパデールはうなづいた。

「この紋章はアラデック教のものよ。やっぱりとは思ったけど、少しは楽しい散歩になりそうね」

 そう言って、エパデールは片目を閉じた。

 ……どうやら、私は命を狙われる存在らしい。命は取られる事がないと思っていたが、これが大誤算であった事は、のちによく分かる事になるのだった。

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