第25話 冒険者登場
飛行船が西の現場に着くと、そこはさながら戦場だった。王家の紋章が染められたテントがいくつも並び、走り回る兵士たち……半ば呆然としていると、向こうから声をかけてきた。
「はーい、王家のお2人さん。お会いできて光栄です。なんてね」
カラカラと笑う女性の隣には、黙して一礼するドワーフの戦士。よく見たら……
「エルフとドワーフが組んでるの!?」
それはまあ、あり得ない光景だった。エルフは主に森で集落を作り生活するが、ドワーフは主に穴を掘って地下に集落を作る。エルフが驚異的な魔法使いであるのに対し、ドワーフは屈強な戦士として武器による攻撃を得意とする。鍛冶技術も一流で「ドワーフが打った剣」というだけで、とんでもない値段が付くのだ。
とまあそんな2つの種族であるが、今から数百年前に理由は知らないが全面武力衝突したことがある。それ以来エルフとドワーフの仲は険悪になり、今に至るはずなのだが。
「あはは、どこにでもはみ出し者はいるでしょ? ああ、私はエパデール。で、こっちの無口なヤツはダルメート。あなたたちは王族だけど、呼び捨てでいいわよね? その代わりこっちも呼び捨てで呼んで」
「構わないわ、私はシンシア。こっちにいるのは旦那のアラムよ」
「よろしくお願いします」
アラムが頭を下げる。
「……少年、その剣を貸してくれ」
えーっと、ダルメートさんが……いや、ダルメートがアラムに言った。
「は、はい……」
髭を長く伸ばしたドワーフにビビったか、アラムがオドオドとしながら剣を鞘ごと渡した。ダルメートは剣を抜くと、つぶさにそれを観察する。
「材質は鋼か。刃こぼれが酷い。しかも所々に錆が浮いている。それに、刀身が身長に見合った長さではない。これでは戦えぬぞ。ちょっと待ってろ。鍛え直してくる。
ダルメートはそう言って、テントの1つに入っていった。
「ゴメンねぇ。悪気はないのよ。ただ痛んだ武器が許せないだけ。実はこの迷宮は発見されてからもう半年経つんだけど、兵士の武器が余りに痛んでいて我慢出来なくなっちゃったみたいでさ。簡易鍛冶工房作っちゃったのよね」
……あれま、アクティブ!! てか……。
「もう半年経っているんですか?」
私の興味はむしろそっちに向いた。
「丁寧語も禁止。タメ口じゃないと、いざって時に危ないから。で、そうそう、見つかったのは半年前。でも、なかなかの強敵でね。まだ1階層しか探索が完了していないの。そこで王都に応援要請したら、あなたたちが来たってわけ」
……なるほど、これは手がかかりそうね。
「ちなみに、経験は?」
「2人とも全くないって言った方がいいわね。今の話しを聞く限り、暇していたから送り込まれたって感じ」
まあ、実際そんな所だろう。
「あはは、自分でいっちゃったし。まあ、それじゃ肩慣らしで調査済みの地下1階を歩いて見ましょうか。ダルメートが戻ってきたらね」
こうして、私もアラムも初めての本格的な迷宮への旅立ちとなった
「おい、少年。そっちだ!!」
声すら上げる暇も無く、やたらめったら飛びまくる巨大な昆虫のような1体を、アラムが必死に切り飛ばす。初めて見たが、これが魔物というヤツだ。
「炎よ!!」
エパデールの声が響き、無数の「昆虫」を焼き尽くし、私は回復魔法やら防御魔法やら、たまに「前衛」が取りこぼしたやつを杖で叩きとす!! とにかく忙しい。そして、ほどなく魔物集団はいなくなった。
「へぇ、最初にしては上出来よ。特にあの男の子、最初見たときはマジか? と思ったけど、意外と剣の腕が立つじゃない」
……そう、これは私も意外だったのだが、アラムの腕は確かだった。普段の甘ったれた顔ではなく、なんというか、妙にキリッとしている。一瞬ドキッとした私が嫌だ。不覚……。
「2人とも初めてにしては上出来よ。私が打ち上げた明かりの光球の下で、エパデールがニヤリと笑う。
「さて、奥に進むわよ」
私たちは隊列を組み直し、ゆっくりと先に進んでいく。ここは大人2人が横になって歩けるくらいの通路だが、積んである石を見る限りかなり古い。なんて事を考えていると……。
「はい、また来たよ! 戦闘態勢!!」
エパデールの声で、私は慌てて杖を構える。役割は自ずと決まっていた。アラムとダルメートが前衛で敵と直接対峙し、エパデールは後衛で必要な攻撃魔法で叩きのめす。私の役割は回復や防御魔法などでみんなが戦いやすくする事。直接戦う事のない裏方仕事だ。
戦うといえば、時々取りこぼしたヤツを杖でぶん殴るくらいである。
「それにしても、地下1階ってもう探索済みなんでしょ? なんでこんなに魔物がいるの?」
私は一息ついたエパデールに聞いた。
「だから迷宮なのよ。こいつらがどこから来るか分からないし、詮索するだけ無駄よ。そこにいるから倒す。それだけよ!!」
……まあ、それもそうか。しかし、アラムのやつ。戦う度にいい顔になってきている。一丁前にほっぺたに切り傷なんて作っちゃって。なんだかんだ言っても、さすが男の子なんだよねぇ。
「なんか大丈夫そうだし、このまま地下2階に行っちゃうか!!」
エパデールの提案に誰も反論する者はいなかった。
こうして、私たちは未調査領域が残る地下2階に向かっていったのだった。
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