閑話 鎧たちの悲劇

 ……こんな馬鹿げた事があるか?

 王子も姫もそれぞれ貸し切りの宿にいる。それはいい。今頃は湯を楽しんでいる事だろう。それが目的だからだ。

 俺たち護衛の第6小隊は、ややボロくいかにも安宿という感じの宿舎が割り当てられたのだが……まあ、これもいい。俺たち兵士なんてこんな扱いだ。もう慣れきっている。しかし……

「第2小隊が再び警護に戻った。これから入浴だ。時間は15分!!」

 小隊長が叫ぶ。まあ、こんなもんだ。15分も入れば十分だ。これもいい。

「喫緊の事態に備え、各自装備はそのままで入浴せよ!!」

 これだ、これが問題だ。俺たちはフル装備。すなわち、フルプレートアーマーに帯剣までしているのだ。これでどう入浴しろというのだ!!

「あの、小隊長。これでどのように入浴しろと……」

 誰かが小隊長に意見具申する。当たり前だ。先代小隊長の方がよほどまともだった。

「そんな事は知らん。自分で考えろ。さっさと浴場に行け!!」

 ……あり得ん。あり得ないが軍では命令は絶対である。ゾロゾロと浴場に向かうと、俺たちはまず体を……いや、鎧を洗った。全身を覆う鎧には多少隙間があるが、体を洗えるほどのものではない。なんか、意味あるのか。この行動。鎧の中が濡れて気持ち悪いだけだ。そして、鎧に付いた泡を落とし、湯船へと入る。ここでも軍人の悲しさか、しっかりと隊形を作ってしまう。……想像して欲しい。湯船にぎっちり詰まった鎧の集団を。奇っ怪としか言いようがないだろう。温かいお湯があるだけマシだが、とてもではないが、温泉を楽しんでいるという気分にはなれない。これなら、入らないほうがまだいい。そして時間は経った。

「入浴終了だ。総員、持ち場に戻るぞ!!」

 俺たちは湯船から出て、体でなく鎧を拭く。温泉だけに急に寒くはならないが、はっきりって冷たいし気持ち悪い。

「では、第3小隊と交代する。総員持ち場につけ!!」

 小隊長の命令のもと、俺たちは散ったのだった……


◇  ◇  ◇


「隊長、第6小隊が壊滅しました!!」

「なに、敵襲か?」

「いえ、風邪です。全員高熱を出して使い物になりません!!」

「弛んでおるな。しかし、全員風邪とは……」

「はい、なんでもフル武装したまま風呂に浸かったとの事で……」

「……バカか。あいつら」


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