第22話 後始末

 復元魔法というものをご存じだろうか?

 読んで字のごとく、壊れたものを元に戻す魔法だが、高位魔法に分類されるわりには扱いやすいので、使える術者も多いだろう。しかし、なにをどれだけ直せるかは、ストレートに術者の魔力次第。私の場合、例えば……。

 半壊した城が怪しい光に包まれる。すると、まるで逆回しでもするかのように、散らばった瓦礫が元に戻っていく。1分もかからなかっただろう。城は元の形を取り戻した。これは2つの魔法が混ざっている。復元がベースだが、さらに「生成」の魔法も合わせた高難易度の複合魔法だ。そうしないと、飛び散ってなくなった部分が元に戻らない。

「さて、終わりっと」

 帯同していた兵士が歓声を上げる。

「やはり、シンシアは凄いですね」

 外行きの口調でアラムに言われても、私の心は動かなかった。午前中からぶっ飛んだ瓦礫で壊れた家の修復をしていたのだ。そして、最後に残った大物がこれ。さすがに、魔力の限界だった。

「ふぅ、疲れた……」

 ただ戻すだけじゃ芸がないと、城を照らすライトまで「生成」してしまったのがまずかった。まあ、夜になれば、さぞや派手に城をレインボーカラーで照らし上げるだろう。

「さて、これで終わり。ちょっと部屋で休むわ。なんか眠い……」

 眠気を起こすほどの魔力切れは、気絶の一歩手前である。こういうときは寝るに限る。

「それでは戻りましょう」

 それまで帯同していた兵士と別れ、私たちは自分の部屋に向かう……といってもまあ、アラムは私の部屋に入り浸りなんだけどね。

「今日は僕が膝枕してあげる。ほら、こっち!!」

 当たり前のように私の部屋に入り、当たり前のように私のベッドに乗ったアラムが言う。

「普通は逆でしょうが……」

 と文句を言ってみたが、私の眠気はいよいよ耐えがたいものになってきた。この際もうどうでもいい。私はベッドに潜り込むとアラムの膝の上に頭をのせた。

「♪」

 すると、私の頭をそっと撫でながら、アラムは歌を歌い始めた。

 ……上手い。アラムにこんな特技があるとは!?

 恐らく、この国の母国語だろう。言葉は分からないが、ただでさえ眠かった私には「睡眠」の魔法に匹敵するぐらいの威力があった。

 ……くそ……アラムの……くせに……。


「ん?」

 私が目を開けると、まだアラムの膝の上に私の頭が乗っていた。

「あれ、今何時?」

 半分寝ぼけながら、私はアラムに聞いた・

「うーん、もう深夜かな……」

 えっ!?

「ごめん、今起きる!!」

 慌てて起きようとした私を、アラムがそっと手を当ててとめる。

「もう少しこのままで……」

 そうささやくと、私の頭をを撫でながら、アラムは私にそっとキスした。

 ……な、なんだ、なんかアラムのノリじゃないぞ!?

「どうしたの、急に?」

 これだけ暗ければ、私が赤面していることに気がつかないだろう。

 アラムは私の問いに答える事はなかった。

「……僕はね。別に必要なかった子なんだ。お兄様たちは優秀だし、僕がいなくたって国は上手く回ったんだよ。その分自由にやらせてもらっているけど、いつもコンプレックスはあったんだ……」

 8才だよね。本当にアラムって8才だよね!?

「だから……こう言ったらいけないんだけど、お兄様方たちが戦死したって聞いた時は、心の底で喜んでいたんだ。でも、お父様はアリシアに蘇生させた。もちろんアリシアが悪いわけじゃない。この時思ったんだ、やっぱり自分はいらない子だって……」

 ……

「あのねぇ、私はあなたの国に売り飛ばされたくらいなのよ。サンダルシアだっけ? よく分からないけどそんなものと引き替えに。ジメジメしたこと言っているんじゃないの!! それに、今のあなたには重要な役割がある」

 わざと明るい声で私はジメジメ空気を吹き飛ばした。

「役割?」

 ……このニブチンが!!

「私の旦那でしょ。あんたは。これ以上の役割があるっていうなら、ぶん殴るわよ!!」

 アラムはポカンとした表情を浮かべている。全く……。

「それって……」

「言っておくけど好きと旦那は別腹よ。政略結婚だしぃ♪」

 私はちょっとイタズラしてみた。実際、よく分からん。

「えええ、今の流れ的には、好きなんじゃ……!?」

「さぁ、どうだかねぇ……」

 ふふふ、やっぱりまだお子様。ストレートな反応が楽しい。

「僕、頑張る。シンシアから絶対好きって言わせる!!」

 ……よし、軌道修正完了。

「ま、せいぜい頑張りなさい。私のハードルは高いわよ」

 私はそっと起き上がった。しかし、アラムは動かない。

「いつまでその格好なのよ。どうせまた一緒に寝るんでしょ?」

 私はアラムに見えない場所でにささっと寝間着に着替えた。

「うん、1つ問題があって……」

 ……問題?

「足が痺れて動けない。なんかこう、回復魔法的な……」

「甘えるな!!」

 私は無理矢理彼を立たせた。

「うぎゃぁぁぁぁ!?」

 ……はぁ。全くこれだからお子様は。

「どう、治った?」

 私はニヤリと笑みを作ってやった。

「いてて……まだ痺れてるよ。酷いよシンシア……」

「いつまでも、あると思うな親と魔法。そうそう使ってあげないわよ」

 ブチブチ言い始めたアラムを私はピシャッと切る。

「こ、今度、回復魔法教えて……」

 やっと歩けるようになったか、アラムがよたよたとこちらに向かってきた。

「企業秘密。大体、あなたちょっとだけ回復魔法使えるじゃない。あれで十分よ」

 魔法使い同士の戦いは相手の魔力を読む所から始まる。ゆえに、まず相手の魔力を読む癖が付いているのだ。アラムの魔力はさほどではない。

「そこをなんとか……」

「無理なものは無理!!」

 私はにべもなく断った。何でも魔法に頼るのは良くない。

「さて、寝るわよ。私は起きたばかりだけど、アラムは寝てないでしょ?」

「うん、寝ていないけど……」

 フラフラ歩いているアラムをベッドに放り混むと、私はお返しに子守歌を歌った。そして、呆気なく落ちるアラム。全く、手間のかかる旦那だこと。

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