第17話 総合医療センター開業

 ついにというか、ようやくというか、城の前に総合医療センターが完成した。蘇生士はいうまでもなく私、タッグを組む魔法医はアリウド・ガリレイ先生である。

 今になって気がついたが、魔法医と蘇生士の仲はは極めて悪い。死体を蘇生する蘇生士は、魔法医からすれば邪道と見なされているのだ。私はそんな事は想わないが、蘇生士からしたら、魔法医など助かればそれでよし。ダメなら見捨てる薄情者と見なしている。その2人が同じ場所で働くなど、通常はあり得ない。しかし、ガリレイ先生は違った。蘇生のスペシャリストの技を見たい……変わっている。無論私も黙って見せるつもりはない。高位回復術の技を見せてもらおうという算段だ。簡単なセレモニーのあと、いよいよガリレイ先生と診察と私の施術が始まった。ちなみに、センター長兼受付はアラムである。

 全般的には治療の方が多い。当たり前だが、蘇生は少ない。本来こうあるべきなのだ。すると、ガリレイ先生から蘇生の施術が回ってきた。これは珍しい。魔法医はなんとしてでも治療したがるものだが……。私は一緒に回ってきたカルテを見る。遺体は53才男性。名はアドラス・フィード。工事現場で作業中に転落し、ここに運ばれた時には手遅れの状態だった。さて、いきますか……。

 遺体を確認したが、残留魔法はない。さすがだ。カルテには丁寧に遺体の状況が書かれている。お陰でこちらも術式の選択に悩まなくて済んだ。


「!!」


 術式が終わると、フィードさんはゆっくりと身を起こした。例によって記憶の混乱が見られるが蘇生成功である。

「すまんな。勝手に見学させてもらった。蘇生術とはなかなか興味深い……」

 フィードさんが出ていったあと、ガリレイ先生が診察の手を止めてこちらを見ていた。

「どうです? なかなか気持ち悪いでしょう?」

 私は自嘲気味に笑った。

「いや、これを気持ち悪いという輩がおかしい。なるほど、究極の魔法という意味がわかったよ。大したものだ」

 とても魔法医とは思えない発言をするガリレイ先生。ここに来て、私はやっと安堵の息をついた。これならば、タッグを組んで治療や蘇生に当たれるだろう。変わり者で助かった。

「さて、まだ患者さんはいます。バシバシ診療しちゃいましょう!!」

「そうだな。ぜひ私の術も見て欲しい。参考になればよいが……」

 ガリレイ先生、マジ変わってる。

「はい、喜んで」

 そんなこんなで、午前中の診察が終わった。


「ちょっと、何怒っているのよ」

 ガリレイ先生は弁当持参だったが、私とアラムは1度城の中に戻る。昼食をとっている間、アラムは終始ふくれっ面だった。

「だって、あの魔法医の先生と仲良くしてるから……」

 食事が終わり私の部屋に戻ると、アラムがポツリとそう漏らした。あらま、焼きもちでしたか。

「あのねぇ、あれは仕事上のコミュニケーション。大人ならあのくらいは当たり前。しっかりしなさい。センター長」

「僕に蘇生術教えて。そうすれば……」

 私はそっとキスをしてやった。

「蘇生術なんて覚える必要ないでしょ。いや、むしろ覚えて欲しくない。そんなに私って信用ないかなぁ」

「えええ、シンシアの事を信じてるよ。でも、なんていうか……」

 ええい、面倒くさい!!

「ガキだけどガキみたいな事言ってるんじゃない。あんまりナヨナヨしてると結婚指輪捨てるわよ!!」

 瞬間、アラムの顔色が真っ青になった。

「ご、ごめん、もう言わないからどこか行かないで!!」

 アラムは必死の形相で私に抱きついてきた。

 ふぅ、全く……。

「どこにも行かないわよ。ここしか居場所がないから安心しなさい」

 アラムの頭をクシャクシャにする私。だいぶ彼の扱いにも慣れたものだ。

「さて、午後の仕事行くわよ!!」

 こうして、私たちは総合医療センターに戻ったのだった。

「はい、次!!」

 午後はなぜか蘇生ばかりだった。今までは1日2件と決めていたが、ガリレイ先生から回ってくる分も含めて、次々と遺体がやってくる。魔力回復の魔法薬を飲みすぎてお腹がタポタポいっている。さながら戦場だった。

「はい、成功。気分は大丈夫ですか?」

 いくら戦場といっても手は抜かない。魔力切れでフラフラする中、私は今日最後の患者さんを見送った。蘇生希望はまだいたが、これ以上は助けられる命も助けられない。ガリレイ先生に本日打ち止めの意を伝え、助手さんが残りの蘇生希望者の遺体をそっと安置室に運ぶ。柩安置室とは違うのでご安心を。しかし、べらぼうに魔力を使うのが蘇生術。頑張っても1日10件が精一杯だ。

私は施術室の床に魔方陣を描き、そこに寝転がった。魔力回復のためである。そこに、ガリレイ先生が顔を出した。

「ほう、回復魔法も使えるのだな。しかし、それでは足りぬだろう。私が魔力を回復させるから、こっちに来なさい」

 私は言われるままにベッドに横になり、ガリレイ先生が回復魔法を唱える。体内で力がわき上がる事が実感出来る。これは凄い! スッカラカンだった魔力まで回復していくのが分かる。なんだこれ、凄いぞ!!

「さて、これで大丈夫だろう。続きに取りかかろう」

 ……えっ?

「続きって……」

「そこに患者がいれば、可能な限り全力を尽くす。それが医療者の努めだろう」

 ……いや、私って医療者じゃないし!!

「さぁ、かかろう!!」

「はい……」

 なんという目の鋭さと押しの強さだろう。この私に一言の文句も言わせないとは……。

 結局、私は途中で「補給」を受けながら、30体以上の遺体に蘇生術を施し、全て成功させるという快挙を成し遂げた。全てが終わった時、私は抜け殻のようになっていた。

「こちらも全て終了だ。では、また明日会おう」

 そう言い残し、ガリレイ先生は颯爽と去っていった。タフな人である。

「シンシア、大丈夫?」

 受付からやってきたアラムが私に声を掛けてきた。

「だ、大丈夫そうに……見える?」

「見えない……」

 じゃあ、聞くな!!

「と、とりあえず、帰らないとね」

 魔力回復薬をがぶ飲みしてから、私はフラフラと歩き始める。アラムがそっと腰に手を回して支えてくれた。


 こうして、総合医療センターの初日が終わった。この仕事、思ったよりヘビーかもしれない……。

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