第14話 国事行事
その日、私は朝から緊張していた。国王の誕生日で祝日だったが、国の行事として亡くなった3人の王子を公開で蘇生させるというのだ。これで、蘇生術に対する一種の偏見をなくし、異国から嫁いで来た私の立場を盤石にするというのだが、さて効果はどうだか……。ちなみに、3王子共に国民のあいだでは人気だったらしい。
いずれにしても、失敗すれば逆効果なだけに、これは気が抜けない。まあ、いつも通りやればいい。そう言い聞かせている。そうしないとプレッシャーに負けそうだ。
「大丈夫ですよ。シンシアならきっと出来ます!!」
アラムから根拠のない励ましを受けてから、私は円を作るように群衆が取り巻く王家専用墓地に立った。すでに遺体は柩から出され、地面に横たわっている。邪魔だからと敷物はやめてもらい、柩も片付けられている。他にもイベントはあったが、取りを務めるのはこれ。集まった群衆の数も多い。
「では、始めます!!」
私はあえて大声でそう言った。時刻は昼過ぎ。まだ太陽がジリジリと皮膚を焼いてくる時間だ。私の声で、「お静かに」のプレートを持った兵士達が走り回る。辺りは異様な静けさに包まれた。久々に手のひらを切ったが痛い。しかし、これでエンジンがかかった。
「……」
私は呪文を唱えながら、3体ある遺体の周りを魔方陣で囲んでいく。10人よりマシだが、複数同時蘇生はかなり難易度が高い。しかし、新しくなった杖の性能はすこぶるいいし、私の体調も問題ない。特に支障なく魔方陣は完成。さて、ここからだ。
呪文を唱えながら、私は粛々と蘇生術を施していく。怪しく魔方陣が光り、そしてその時が来た。
「!!」
最後の呪文を唱え、杖をトンと魔方陣に当てる。一瞬だけ魔方陣が激しい光を発して消え……しばらくすると、3人ともゆっくりと身を起こした。よし、成功だ!!
混乱している様子の3人に群衆が押し寄せ、それに吹き飛ばされるように私は狭くなった円外に放り出された。まっ、蘇生術士などこんなものだ。あくまでも裏方なのである。私は簡単な呪文を唱え、無数の白い鳩を飛ばした。そう、実は召喚術も嗜んでおります。はい。
「シンシア、大丈夫!?」
慌てて駆け寄ってきたアラムが、私の体に飛びついた。あれれ、口調が変わってる。
「大丈夫よ、杖の性能が桁違いに上がったから体の負担も少ないし。それにしても、やっと口調崩してくれたわね。今後はそれでいくように」
「えええ、これでですか。王族として……」
「王族の前に私の旦那様なの。公の場はともかく、プライベートはそれでいいわ。なんか距離が遠くて嫌だし……」
「分かりました……じゃなくて、分かった!!」
ようやく8才に相応しい言葉と笑顔を向けるアラム。はぁ、長かったなぁ。感慨深くて泣きそうだよ。泣かないけど。
これが、私たちのある意味スタートラインになった瞬間だった。
「さて、やることやったし部屋に戻りましょうか」
「うん」
……言ったそばから言えないけど、違和感が。まあ、慣れの問題。慣れの……。
「ああ、もう悩ましい!!」
私は1人叫んだのだった。
城内に戻ると、私たちは真っ直ぐ私の部屋に行った。まず、やらなければならない事がある。部屋の無駄に豪華な椅子に座ると、私は傷口を見た。いつもより大きくて複雑な魔方陣を描いたため、傷口もやや深め。まだ血が滴っている。私は回復魔法でそれを治療する。ものの数秒で傷口は塞がった。
「ずっと思っていたんだけど、それ痛くないの?」
アラムが間抜けな事を聞いてくる。
「あのねぇ、私だって痛覚はあるわよ。痛いに決まっているじゃないの。蘇生術はそれだけイレギュラーなものなの!!」
本来、蘇生術なんてものはパカパカ使うものではない。ここぞというときに取っておく必殺技みたいなものだ。今は休業中だけど、そうバカスカ蘇生していいものではない。倫理的な意味ではね。
しかし、なし崩し的にこの状態になってしまった。今さらやめますとは言えないだろう。蘇生術士など、そうそういるものではないのだから……。
「あっ、今度出来る建物には魔法医や魔法薬師も常駐するみたい。総合医療センター? とかお父様が言ってたなぁ」
「へぇ、面白い事するわね……」
これならだいぶ気が楽になる。蘇生専門ではなく治療も行う施設なら私も気を負わなくて済む。変な目で見られなくて済むからね。
「しかしまあ、蘇生術(これ)で出世? するとはね……」
世の中なにがあるか分からないものである。あの鷹狩りの時に10人同時蘇生をやらなければ、私は平穏に王城暮らしだったのだが、それはそれでゾッとしない話しである。私は外に出ないとやっていけない人間なのだ。
「いいんじゃない、特技があるっていいことだよ。僕なんてなにもないから……」
アラムがありがちな事を言ってきた。全く……。
「特技がない人間なんていないの。気がついていないか、探していないだけ。弱気な事を言っている暇があるなら探しなさい!! それに……」
……あーどうしよ。言っちゃうか!!
「あなたは腐っても私の旦那様なの。「死人姫」のね。それだけで特技よ!!」
普通は逃げるだろうに、アラムはいつもニコニコしている。もう分からない年齢ではないだろう。毎日のように死体や遺体に向かい合いながらも、平静を保っている私の異常さを……自分でも、頭のどこかがおかしくなっていると感じているほどだ。
「僕はシンシアの事が好きだよ。「死人姫」なんて呼ばれてもいいじゃん。だって、僕が好きだから平気なんでしょ?」
……な、な、な!?
「ど、どこで、そんな台詞を……。いやまあ、実際そうだけど……」
私が平気な理由は、実際アラムが平然としているからというのが大きい。しかし、まさか……自分で言うな。このバカ!!
「どこでって、この前読んでた官能小説……あっ!?」
「いっぺん死んでこい!!」
私は爆発魔法を放った。大丈夫、死んでも蘇生して上げるから♪
こうして、アラムと私の時間は平和に? 過ぎて行くのだった。
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