第13話 とりあえず休み!!
テントの増設ではなく、いっそ本格的な建物を作ってしまえとの国王様のお達しで、蘇生の仕事はしばらくお休みになった。テントで継続も出来たのだが、私にも休憩は必要だ。 このところずっとアラムと2人で過ごす時間は夜だけだったのだが、久々に朝からゆっくりだ。私の母国では一族揃ってからの朝食だったが、この国では勝手に食堂で食べるらしい。まあ、この方が楽だ。
「こら、甘えすぎ!!」
ずっと我慢していたのだろう。朝から晩までアラムは私にべったりだった。悪い気はしないが、ちょっと困ってしまう。
「あー、もう寝るんだから、布団取らない!!」
私とアラムのベッド上の格闘は続く……て、変な意味じゃないぞ。
「せっかくゆっくり出来るのです。今までの分まで……」
「ダーメ!!」
今のうちに疲れを取りたいし、ゆっくり魔力の回復もしておきたい。アラムの気持ちも分かるけどね。
「じゃあ、僕が膝枕します!!」
……はぁ。
「分かった分かった。膝枕してあげるわよ。こっちおいで」
私は布団の上に座ると正座した。何も言わず、アラムが膝の上に頭を滑り込ませてくる。
……まあ、いいか。
蘇生術の施術は魔力も使うが、精神力もそれ以上に消耗する。なにせ、毎日遺体や死体を見ているのである。気を張っているから平気だが、本音を言えばかなりキツい。何度夢で死体に追われたか……。だから、こういう時間も必要である。
「はぁ、頼りにしていいのかどうか分からないけど、あなたがいてくれて助かるわ」
早くも寝息を立て始めたアラムの頭をそっと撫でながら、私は小さく笑みを浮かべた。
「はぁ、困った旦那様だこと」
8才の旦那か……。扱いに困るわね。本当に……。
「さてと、昼になったらたたき起こしますか……」
私は陽光が差し込む窓を見た。今日も暑そうだ。
昼ごろアラムを起こし、私たちは城をそっと抜け出して街を歩いていた。よくある服に着替えているため、誰も気がつかない……はずだった。
「あら、お姫様。今日は旦那様とデートかい?」
出店のおばちゃんにさっそくバレた。服装を変えても顔は変えていない。そういう幻影の魔法もあるが、油断して使っていなかったのだ。そして、あっという間に人だかりが出来てしまった。やはり、蘇生所なんてやっているせいで、変に顔が売れてしまったらしい。人から「死人姫」と呼ばれているのは知っているが、そのわりには好印象のようだ。とりあえず、ホッとした。もちろん、気持ち悪く思う人もいるだろうけどね。
「かえって目立っちゃったね」
「ええ、想定外でした……」
せっかくゆっくり散策でもしようと思ったのだが、これではそれどころではない。
……ちっ、やるか。
私たちは群衆をかき分け、絶賛建築中の蘇生所の脇を抜け、提携している荷馬車屋に駆け込んだ。
「おや、どうしたんだい。蘇生所は休みだろう?」
出てきたオッチャンが不思議そうに聞いて来た。
「とりあえず街の外まで。料金は後で!!」
そう言うや否や、私は荷馬車の荷台に寝転がる。アラムも黙って乗ってきた。
「どこに行くんだい?」
「どこでもいいから、おすすめの場所へ!!」
「分かった。荷台にはカバーを掛けておこう」
アラムと私が並んで寝ている荷台に、革製のカバーが掛けられる。ある意味密室だ。
「こんな状態ですが……その……」
……はいはい。
私はそっとアラムを抱きしめ、軽く唇を合わせた。そのまま抱き合う事しばし、馬車ががたりと止まった。
アラムを放り出すようにして、私は慌てて離れた。カバーが外され、オッチャンの声が聞こえた。
「着いたぞ。『アロワナ海岸』だ」
王城がある街は海の近くだ。あちこちに海岸があるのは知っているが、そこは穴場と言える場所だった。馬車から降りると、そこは一面の砂浜とどこまでも広がる海だった。
「ここで待っているから、2人で遊んでくるといい」
オッチャンが気を遣ってそう言ってくれた。
「じゃあ、遠慮無く!!」
「あっ、待って下さい!!」
アラムの手を引っ張り、まずは海に突撃する。真夏とは言え、海水はなかなか冷たかった。それから磯に移動して小さなカニと遊んだり、物陰でまたキスしてみたり、思い存分遊び倒して時刻は夕刻。そろそろ帰る時間だ。
「あー充電完了。スッキリした」
私は再び馬車の荷台に寝そべった。先に乗ったアラムは、もう寝息を立てている。やれやれ……」
馬車はゆっくり走り出し、しばらく走った後に荷馬車屋の建物に到着した。
「はい到着だ。……なんだ、旦那の方はすっかりお眠りか?」
荷馬車屋のオッチャンがそう言って笑った。
「すいません。私が背負って運びます」
完全に寝ている人間を運ぶのは、例え8才でもなかなか重い。どうにかこうにか城まで運び、近衛隊長にしこたま怒られながらも何とかアラムの部屋に彼を寝かせる。この時思った。浮遊の魔法で浮かべれば良かったと。
まあ、とにもかくにも一息ついた。今日1日でかなりリフレッシュ出来たのは間違いない。これが正常な結婚生活なのだ。私の結婚相手は死体や遺体ではない。
「全く、いつの間にこうなったのやら……」
アラムのベッドに座り、私はそっとため息をついたのだった。
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