第6話 奮闘のシンシア

 鷹狩りという狩猟方法をご存じだろうか?

 その名の通り、訓練された鷹を飛ばして獲物を穫るもので、王侯貴族の間では一種のスポーツとして嗜まれている。

 今日はまさにその日。どうにも気が乗らなかったが、アラムのお願いで私も猟場に同行する事になった。ただし、馬車の中で待機ということで。

 国中の貴族が集まり、和やかな中でスタートしたようだ。私は馬車の中で読書タイムとなる。読んでいる本は魔法関係の本だ。常に勉強しておかないとね。

 本を読み続ける事しばし、遠くの方……猟場がある方からワラワラと人が駆けてきた。それと同時に、地鳴りと振動がここまで届く。

「レッド・ドラゴンだ!!」

 誰かがそう叫ぶ。レッド・ドラゴン? なんでこんな場所に……。

「私の出番かな……」

 杖を手に取り、私は魔法で空を飛ぶ。逃げてくる人たちを飛び越えると「それ」はいた。

 真っ赤な鱗を身に纏い、ど派手に炎を吐きまくっているそれは、間違いなくレッド・ドラゴンだった。通常、こんな開けた場所には出てこない。森の奥や洞窟といった暗い場所を好むのだ。しかし、いるものは仕方がない。倒すしかないのだが……。

「まいったわ。私はほとんど攻撃魔法使えない……」

 レッド・ドラゴンに武器は効かない。魔法で倒すしかないのだが、私が使えるのは簡単な爆発を起こす魔法と氷の矢を飛ばすだけ。とてもレッド・ドラゴンに対抗出来る代物ではない。

 その間にもレッド・ドラゴンは炎を吐き続け、ついには私の方に向かって吐いてきた。

「防御魔法!!」

 私が唱えた防御魔法が、何とか炎を弾き飛ばす。あっ、思いついた。この方法なら……。

「防御魔法、並びにリフレクト!!」

 私は立て続けに魔法を放った。淡い緑色の光が私を包む。そして、小爆発を起こす攻撃魔法をレッド・ドラゴンに放った。しかし、こんなものじゃ効かない。最初から分かっている。

 鬱陶しかったのか、レッド・ドラゴンは私の方に頭を向け、強烈な炎の息を吐いた。これだ、これが狙いだ!!

「くっ……」

 防御魔法を通しても襲ってくる熱。まともに食らったら一瞬で消し炭どころか骨になるだろう。

 基本は防御だが、私はもう1つの魔法を唱えていた。リフレクト……物理攻撃には効かないが、魔法などをそのまま相手に跳ね返す魔法だ。


 グォォォォォ!!


 まさか、自分の吐いた炎に焼かれるとは思っていなかったのだろう。地鳴りのようなうなり声を上げ、その場に横たわった。まだ、これで終わりではない。トドメを刺さなければ……。

 私は杖に魔力を集中させ、ドラゴンの頭をめがけて思い切り突き立てた。がくんという痙攣を起こし、レッド・ドラゴンは完全に動かなくなる。

「さて、こんなもんか……」

 杖を片手に持ち、私はため息をついた。

 辺りには10体近い焼死体があり、どれも酷い損傷だ。中には、剣を持った死体もある。そういえば、生き残った者の中にアラムがいない。まさか!?

 焼死体を見て回るうちに、私は見覚えのある鎧を纏った焼死体を発見した。体の大きさからして間違いない。アラムだ!! 私は軽いめまいを起こした。

「あっ、そこ遺体を動かさないで!!」

 どっかの貴族だったのであろう遺体を荷車に乗せようとしていた者たちに、私は大声で制止した。

「……しかし、急いで教会の呪術師に診せないと」

 遺体を荷車に乗せようとしていた1人が、慌てたように声を上げる。

「教会に行く前に完全に蘇生出来なくなるわよ。大丈夫、私が蘇生させるから!!」

 そう、私の専門分野は蘇生術。通常の魔法に加え、若干禁術も混ぜた私オリジナルの魔法。遺体の損傷具合にもよるが、例え骨だけになっても蘇生出来る自信がある。遺体をその場から動かさなければ。

 先ほど遺体を運ぼうとしていた一団も、私の声で踏みとどまったようだ。さて、大仕事になるわね……。

 私は小刀を取り出すと、自分の左手の平をサッと切った。杖を持つと私の血が地面にしたたり落ちる。それで遺体の周りを囲むように魔方陣を描き、呪文の詠唱に入る。10人か……なかなかシンドイ。が、やめるわけにはいかなかった。

「あるべき魂はあるべき所へ!!」

 最後の詠唱を終え、私は杖を地面に突き立てた。すると、ほぼ完全に炭化して骨まで見えていた遺体が、逆回しするかのように再生していく。さすがに魔力が……。1つでも気を抜いたら、そのまま倒れそうである。しかし、蘇生術が終わるまでは……。

 そして、全てが終わった。10人がそれぞれポカンとした表情で辺りを見回している。よし成功だ。私は魔力切れで倒れる寸前。アラムの声を聞いた……気がした。

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