夢の話

浮雲

夢の話

 私と兄はついに母を殺した犯人を見つけて部屋に呼び込むことに成功した。兄が小さなナイフを持ち、私が犯人である男を動けないように抑え込む。

「私たちがどれだけの思いでお前を探し出したことか!これで母の復讐が終わる。この後刑務所に入ろうが罪人になろうが関係無い。お前には死というものよりも死にゆくその瞬間までの苦しみを味わってもらわねばならないのだ!」

 兄がこちらに走ってきて男の腹部を刺した。私は男を抑えていた手を離すとその身体は小さく呻き声を上げて力なく床に倒れた。表情をうかがってみると、もう精一杯逃げて生きてきたから心残りは無いと言っているようで、私は急に情がわいてしまった。とりあえず死ぬまでは楽な姿勢にしてやりたいと思い、慌てて近くにあった座布団を引っ張り、男の頭を抱えその下に座布団を敷いてやった。

「痛くない?」

 いや、刺されたから痛くないわけはないだろうと思っているのについ声を掛けてしまった。

「……大丈夫だ」

 男は涙を流し、もうそんな力は無いだろうに、私にすがるようにゆっくりと背中に手を回し抱き寄せた。私は男の頭を撫でていた。死ぬまでそうしていた。

 男が完全に意識を失い絶命した後、背中に回されていた手を離し男の顔を見ると、何故か幸せそうで柔和な表情をしているようだった。

「何をしているんだ。早く行くぞ」

 兄に声を掛けられてその場を立ち去る。私は部屋を出るときにもう一度男を見た。

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