(4)婚約破棄
それは、宴が たけなわとなって来たタイミングで起こった。
もちろん、この機会を狙っていたのは間違いないだろう。
警備隊員が気付いた時には もう遅かった。
会場全体に響き渡る大音声。
「東公国ソーン侯爵家令嬢 エミーリア、俺は お前との婚約を破棄する」
婚約破棄男、後にそう呼ばれる事になる、西王国・王家第1王子(正妻の子息でありながら、太子ではない)の言葉に、舞踏会に参加した、当のソーン侯爵家令嬢を除く全員が、その大音量に驚きながらも、その内容に 男の正気を疑った。
場所柄を弁える事も出来ない愚か者。
落ち着いて考えれば、婚約破棄男は、本日招待されていない者だったと気付く。
そして呆れるのだ。中途半端な魔法まで使って、今更何を言っているのだ、と。
婚約破棄男は、先程の魔法による大声にも 全く動じていないエミーリアに驚いていた。
聞こえていない。などとは思ってもいなかったのだ。
沈黙の中、舞踏会場が一瞬 静寂に包まれた。エミーリア・ソーン嬢の、本のペーを
エミーリアは その頃になって、やっと精霊が動いた事に気付いた。
彼女が気付かない内に精霊が何かしたようだ、と。
だが それは、いつもの事である。エミーリアの認識としては、今更 気に留めるような事ではなかった。
彼女は周囲の状況にも全く気付かず、テーブル上の紅茶に口を付け、そのまま読書を続けた。
エミーリアに現在の状況が全く伝わっていな事に気付いた侍女は、彼女に近づき そっと耳打ちした。
今日は 王と王妃、王太后、王太子、三公、義父 そして、珍しいことに王国の主要閣僚の幾人かも来ている。
現状を認識したものの、令嬢は その処理に戸惑っていた。
どう対処しようか、と。
婚約破棄男の頭越しに、エミーリアは国王及びその一族と3公のいる席を伺い。続けて王国閣僚である内務局次官、外務局次官、行政局次官、司法局長官、財務局長官が集まっている場所を見た。
舞踏会参加者の全員が 同じように、少しの間 不快そうな表情をしていたが、それは徐々に苦笑に変わった。
何の茶番だ。というのが皆の感想だろう。
エミーリアは気付かなかったが、さっきの宣言には 不完全な制御ながら、いや不完全だからこそ なのかも知れないが、拡声魔法が使われたため、彼女を除く 参加者全員に聞こえていた。
内容は貴族の広報に載っていた『条件不履行による婚約解消』と、『婚約解消』と『婚約破棄』の違いはあるものの、この舞踏会に参加している者 皆が既知の事だ。
結局のところ、婚約破棄男と その一味は、全員が広報すら確認出来ない、最下位の貴族未満(あくまで個有爵位であるが)であること、それを
彼等が嘲笑の的になったのは当然の事である。
このまま放置。では、皆が困るだろう。
エミーリアは面倒そうに小さく溜息を吐き、まずは確認した。顔は王に向いている。
「それは 貴方が『一方的に婚約を破棄した』と言う事で、間違いありませんね」
彼女の言葉に王が驚きの表情を浮かべながらも、静かに頷いた。
それを見た財務局長官は、ため息を吐き、苦虫を噛み潰したような顔をしながらも ゆっくり頷いた。
彼女の言葉の意味を正しく理解し、了解したのだ。
「そうだ」と、バカな婚約破棄男は、エミーリアに言質を与えた。だが彼は、その意味に 全く気付いていないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます