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「砂漠地帯で広く観測されるオオゼワシは、かつて、人を背中に乗せて移動していたといわれています。これは、文明が発達する以前に、世界において最初で最後に確認される『魔法』」によって遺伝子操作がされたと……」
電気ラクダは相変わらず軽やかな足取りだ。少々値は張ったがメーカーの純正品はさすがに長持ちする。構造力学に準じているというセールスポイントも名前負けではなく、砂地を歩くことによって生ずる、振動での身体的負担がまったくと言っていいほどにない。またがったままでも、手元では安全に別の行動をすることができた。
砂漠へ出発する前に、宿にした街で防塵ラジオを新調することにした。
唯一、電化製品を扱っていたジャンク屋で購入したソレは、すこぶる好調だった。私は気象情報を知りたくて、新品の電池を埋め込んでチューニングしているのだが、どこに目盛りを回しても同じ女性の声しか聞こえない。電源のON、OFFも効かない。ボリューム調整すらかなわない。
弁当箱に直定規を埋めこんだかのような外観はモナカ構造で、つなぎ目の溶接部分だけが、年期に似合わず新しい状態だった。それも、メーカーではなく素人がやったような形跡だ。
防塵という名前にあるまじき接合不十分の隙間があったので、懐からナイフを取り出すと、その先端を差し込む。テコの力学でそのつなぎ目をはがそうと試みると、あっさりと外れた。
ラジオ用のコイルやダイオードといった部品は抜き取られた痕跡があり、中にはただ再生専用のテープレコーダーが入っているだけだった。それもボンド付けされているだけだ。よくみると「博物館備品」とシールに印字してある。
「あのジャンク屋、帰ったら一発殴ってやろう」
防塵ラジオ……の皮をかぶったテープレコーダーを投げ捨てる。砂の中に埋まり、ザス、と無機質な音がした。
街を出発して6時間あまりが経過しようとしていた。数日分を想定した食料や飲料水もまだ少量しか手を付けてはいないし、今のところ電気や衛生機器を用いる装備品に不調はなかった。もともと「ラジオではなかったラジオ」を除いては。
わかってはいたが、青空と砂地が続くだけの砂漠地帯の移動は、退屈との戦いだった。なにか景色に進展があってはいいものではないかと思えるが、その早とちりに心を明け渡したが最後、何も得られる旅ではなくなる。
深呼吸して、今の状態とこの先の不安要素について考え直すことにした。空と地平はどこまでも続いている。
地図上ではあと半日で目的地へ到達するらしい。車などを使えばもっと早く到着しているが、不慣れな運転で想定されていない道を移動するのはどうも悪手な気がし、その移動手段は計画の段階で避けていた。
砂地を移動することを想定した電気ラクダのほうが安心して身を預けられるし、万が一、故障して砂漠の真ん中に放置することになっても、自動車よりは被害額が抑えられる。そしてなにより
――ロマンがある。
昔からよく笑われたものだ。
文明の利器を使えばいいのに、お前はわざわざ不便な方法を使いたがる、と。生まれ落ちる時代を間違えたのではないのか、と。
学生時代を不意に思い出し、頭を左右にふるう。そういう連中を見返すために、私はこの仕事を志したのだろう。
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