第1話 『入団』

不思議な夢を見た。小さい頃に孤児院の図書室で読んだ御伽噺に出てくるような森の中に自分はいる。辺りを見回しても緑の世界が永遠と続いているだけで終わりなど到底見えそうにもなかった。


しばらく森の中を歩いてる内に、1本、そう1本だけ周りの木々とは異質な木が生えていた。葉を全て落とし、木の周りの地面はまるで干ばつが起きた大地のように乾燥しヒビが入っている。


やせ細った木に近づくと、木には今まで読んだ魔導書には一切出てこなかったみたこともない紋章が浮かびあがっていた

興味本意でその紋章触れた次の瞬間、大きな地震が自分を襲う。


(一体何が起きたんだ?)


そんなことを考えている内に、世界は崩壊を始める。


(く、空間に亀裂?!)


通常ではありえない事態に戸惑う内に、自分の立っている場所が一気に崩れた。


「うっ、うぁぁぁぁ!」


どんどん地上が遠ざかって行く。

これは終わったなと思った次の瞬間、意識は現実世界に戻された。


「今の夢は一体....」


今までも夢を見る事はよくあったが、それまで夢とは明らかに違う夢に困惑している中、ふと枕元の時計を見ると。


「あっ、あぁぁぁぁ!ね、寝過ごしたぁ!遅刻しちまう!。」


夢の事など忘れるくらい現実的に最悪の事態が起ころうとしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


速攻で支度をし、朝ご飯など食べる暇もなく我が家を出発。


(これはまずいぞ...、あいつらは5秒遅刻したくらいでも嫌がらせをし始めるのに、このままじゃ5秒どころか10分以上の遅刻が確定だ。)


これから起きるであろう問題に早くも胸を痛める中、レヴィは自分の出せる最高速度で走りぬける。


(学院外では、魔法は使えないし。くそ、加速魔法が使えれば間に合うのに!)


そんな事を考えながら走っていると、学院近郊の市場に人集りが出来てるのが目に入った。そんなのに構う暇もなく走り抜けようとした時、よく知る旗が人集りの中から見える。


その旗には六芒星のペンタグラム描かれており、その中心には黄金の龍が描かれている。


それは世界最強の魔術師団"アヴァロン"を指し示す軍旗であった。


(一体なんでこんな所にアヴァロンがいるんだ?魔導学院近郊って言うの考えられるけど、学院に用があるならこんな所にいないで直接学院に行くはず、何かあったのか?)


因みにこの世界では魔術=魔法とされている。呼び方は人それぞれのため決まった形などはない。

そんな事を考えている内に通り沿いにある時計台の時計を見ると、講義開始まで残り5分しかなかった。


(やばい、このままだと最悪の事態が)


スピードを下げることなく通りを走り抜けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


結局、ギリギリ間に合うと思っていたが、途中スピードの出し過ぎで壁に激突し激痛に苦しんでいたのが原因で遅刻をし、クラスへ行くおルーム長をしてるクラスメイトが予想通りの行動をする。


「おい!無能が遅刻してるぞ!どうやらこの馬鹿は授業を遅刻しても大丈夫だと思っているみたいだぞ」


クラス中から笑い声があがった。しまいには講師の先生までクスクス笑う始末である。


そうこの俺レヴィ・グラムは、能力の低さと、自分では関係ないと思っているが家庭事情から"無能"と呼ばれている。これはクラスに限った話ではない。おそらく学院中の教師を含め誰もがそう思っているだろう。


なにせ入学してから一度も"魔術" の成績学年最下位から抜け出したことがなく学年ワースト2ともかなりの差があるのだから。それに加えサブ教科とも言える"剣術" "体術"も最下位なのである。


よって"無能"。正直自分でもそうだと思っている。これでも馬鹿にされたくないと言う思いから努力はした。

しかし、それが実を結ぶことは一度もなく、結局もう諦めて受け入れることにしようと決めた。

どんなに頑張っても所詮は"無能"。努力するくらいなら、心を折られない努力をしようと思うようになった。


こうして1時限目の講義が終了するまで、終始無能扱いされ続けた俺は、空き時間が30分ほどある日程だったため、とりあえず気分転換をしようと思い、学院内にある"時の森"に行くことにした。


森といっても少し木々が生い茂ってる程度である。しかしこの森は1年を通して葉が落ちることがない。そして、森の中心にある池は何かを投げ込まない限り一切波紋が浮かぶことも水面が揺れることもない。時の止まった森、故に"時の森"と呼ばれている。


そうと決まればさっさと行こう、と思ったその時、クラスの扉が勢いよく開かれ2名の軍人と思われる人間が入ってきた。


しかし、その軍人の胸のエンブレムには今朝方見 た、よく知った模様が刻まれている。すると真っ先に入ってきた、ショートカットの銀髪で、

透き通る様な肌を持った長身の女魔術師が口を開いた。


「学業に専念している所申し訳ない。我らは魔術師団"アヴァロン"に所属するものである。唐突ですまないが、このクラスに用件があるため少し時間をもらいたい」


唐突な最強の魔術師団の登場により、クラスには動揺が走った。中には、感動のあまり涙する者、思わぬ事態に開いた方が塞がらないものなど様々であった。どちらかといえば自分は後者である。

すると先程の女魔術師の口から、どんでもない単語が飛び出した。


「このクラスにレヴィ・グラムと言う人間はいるか、いるならば返事をしろ!」


硬直した。まさか用件が自分にあるとは思いもよらなかった。そして真っ先に脳裏をよぎったのは捕まるのではないかと言う考えである。


何故なら、学院中で"無能"扱いされている自分にわざわざ忙しい魔術師達が来るなど、良くないことの予兆としか思えなかった。クラスメイト達も同じ事を考えたようだ。クラス中から蔑みの視線を感じる。


気づかれないように逃げようと思ったが扉の前には髪をオールバックにして軍服を着ているにも関わらず筋肉の形がはっきりわかる、赤い髪の男が立っている。無論強行突破などできるわけでもない。仕方なく名乗り出る事にした。


「俺が、レヴィ・グラムです」


2名の魔術師達が此方を向く。


「君が、レヴィ・グラムか。なるほど、報告にあった通りだな」


報告、やはり自分は捕まるのだろうと考えた時、女魔術師の口から耳を疑う様な事を聞いた。


「ではレヴィ・グラム、突然だが君には"アヴァロン"への入団を命じる」


は?っと思わず口にしてしまった。クラスメイト達は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしている。

だが1番動揺したのは自分であった。


「あ、あの。言ってる意味がよくわからないのですが...」


「無理もないだろう、しかしこれは虚偽でも夢でもない。君はアヴァロンへの入団を命じられた。わかったならば一緒に来てもらう」


「えっ?あのっちょっと!理解できないんですがって、えぇぇ?!」


動揺で訳がわからなくなっている中、後ろからいきなり先程の筋肉男魔術師に持ち上げられた。


「安心しろ、悪い様にはしない」


「いや、もうこの状況が安心できないんですけど!」


無抵抗のまま担がれその場を後にする事となり、そして無理矢理乗せられた馬車でこれから何が起ころうとしてるの考えていた時。


「No13,リリス・クロムウェル並びにNo15ガイアス・オルガ、目標を確保。任務達成直ちに本部へ帰還します」


女魔術師リリス・クロムウェルは通信機と思われるものにそうつぶやく。

何んだアレは、と思ったその時急な眠気に襲われた。


「あれ、なんだこれ。きゅ..う..に..ねむ..け..が...」


「精神を安定させるため睡眠魔法を使わせてもらった。何、目が覚める頃には到着してるさ」


リリス・クロムウェルの言葉を聞く前にレヴィは深い眠りに落ちてしまった。


「ふっ、とっくに眠りに落ちていたか」


「いいのかリリス、彼に詳しい内容を話さなくて」


ガイアスはリリスに問う。


「問題ないさ、目が覚めれば直ぐにわかる。どうしてこうなったのか、自分のがこの世界にとってどう言う存在なのか、をね」


「まだ17歳の青年には重すぎる運命な気がするが?」


「重すぎるなんてものではないだろう、しかし彼には力がある。運命に逆らう事を可能にするだけの大きな力が」


リリスは深呼吸して続ける。


「私はね彼に期待してるんだよ。彼ならば自分に定められた理不尽な運命を覆す事ができると信じている。だから私は彼が困難にぶつかった時、助ける事を惜しまない。」


「それがお前の覚悟か」


ガイアスは冷静に言う。


「覚悟、まぁそれもだけど。私や貴方達が彼を支えるのは義務みたいなものでもあるでしょう」


リリスが空を見上げる。


「私は、もうあの悲劇を繰り返さない。」


「あれからもう8年、いやまだ8年か。あの日我々には罪が課された。そしてそれは必ず償なわねばならん。彼らとの約束のために」


ガイアスは遥か遠くを見据える様に言った。


「だけど、最終的には彼に託すしかない。彼が運命に逆らえるかどうかは彼次第なのだから、私達にできるのはサポートだけ。でもそのサポートは命をかけてでも遂行しなくてはいけない」


「運命に逆らう者の支援か。全く、世界最強の魔術師団の真の目的がこれだとは口が滑っても言えんな」


ガイアスの口元が緩んだ。

「だが、この使命何としても果たさねば」


「えぇ、そうね。っと本部が見えてきたわよ」


遥か前方に壁がそびえ立い、そしてその中にはまるで監獄のような巨大な城が見える。


「ついに始まるわ。この世界守る戦いが。私達は必ず世界を守ってみせる」


リリスは改めて決意を固めるのであった。





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