レベル上げ6回目・こん☆かつ!
<前回のあらすじ>
椎奈の私服がホットパンツで怜也の何かが目覚めた。
†
これは怜也と椎奈、政子の3人が駅前のゲーセンに遊びに行っていた頃の話。
「あのー、ちょっと大事な相談があるって言われて渋々来たのに、これはどういう扱いなのかなー?」
怜也達の担任、家鴨(30歳リーチ・独身)は生徒の相談にも使われる個室の椅子に座っていた。
その対面には笑顔の新田丈、不機嫌そうな蝶野アイがそれぞれ威圧感を出して立っていた。
「そそ、大事な話だよー家鴨ちゃーん? ――レイ君の魔力が無いの、家鴨ちゃんのせいじゃないかって話になってんだけど」
「え、ちょっとまって。なにそれ、なんで蝶野ちゃんがそんな事言い出してんの?」
「ほら、こないだ家鴨ちゃんが飲んで、べろべろになって職員寮に帰るトキにステラっちと一緒に運んだっしょ?」
付き合いの長い知り合いなのと、これで高給取りなので家鴨は後輩のステラと妹分のアイを連れてご飯を食べに行く事がちょいちょいあった。
そして飲んで愚痴って動けなくなって、お人好しの2人が介抱する所までがセットだった。
「そんトキにさー、ステラっちがなーんか家鴨ちゃんがレイ君を戦士になるように仕向けたとかなんとか言ってるの聞いちゃってさー?」
不機嫌を隠そうともしないアイは、姉貴分にも正面からぶつかっていく。
そして家鴨を呼び出した張本人でもある丈は笑顔のまま足を組んで座ってその様子を見ていた。
「で、そこんとこどうなの?」
「えっとぉ、蝶野ちゃんは知ってる筈なんだけど。先生は先生だから、そういう迷宮の運営上の話って出来ないんだよね?」
「知ってるけど、教師の職権乱用だったら別の話でしょ?」
「いやあ、そこのイエスもノーも言えないっていうか。流石になんていうか、ほら、分かって、わかれよ?」
疲れた顔でどんどん素が出る家鴨を前に、丈が立ち上がる。
「成る程。教師としての規則はきちんと守る。そうおっしゃられる訳ですね……?」
「え、ちょっと新田? やだ、壁ドンとか何それ? あの、流石に15歳は無いんだけど、あんた10年経ったらどんだけ女泣かせるつもりなの?」
あからさまに顔を赤くして動揺する家鴨と、涼しい顔の丈。
「このイケメン自分の顔と仕草がどういう事になるか完全に分かってる。すげーたち悪いわー、あたしこういうのに興味無くてマジ良かったって今本気で思ってるわ……」
そんなアイの野次も何処吹く風。手段を選ばない丈は、家鴨の耳元で囁く。
「どうしても、教えて下さらない、と――」
「む、むりむりむり!? あの、ほんとね、無理だから!」
えぇーほんとうにござるかぁー? という表情でそれを見守るアイ。
姉貴分が女の顔してるの見たく無かったなぁ……しかも同級生相手に。
しかし家鴨もストライクゾーンから外れているのが功を奏しているのか、丈相手に陥落する事は無かった。
「ふ、ふふふ、新田。残念だったわね、10年……いや、5年経ってたらマジで何でも話しますって言ってたかもしれないけど、まだ若かったわ……!」
震え声で辛勝をおさめる家鴨。
丈はプライドが傷つく様子もなく、小さく「ふむ」と言うと携帯電話を取りだし。
「――未婚、30前後で身元の確かな医者や関係者など紹介できますが?」
「何でも聞いて!!!!!」
「家鴨ちゃぁーーーーん!? ちょっとおおおお!?」
「あ、いや! 違う、蝶野ちゃんこれ違うの! そうじゃなくて!」
「ええ、何でも話してしまうと流石に職務に反する事になってしまう。なので先生は、僕らを気にせず独り言を言って下さるというのはどうでしょうか……ねえ?」
そして丈は携帯電話でテキストを開き質問をそっと表示する。
それを見る家鴨の目は血走っており、10年来の付き合いであるアイも「だから結婚出来ないんじゃ……いや、まだ彼氏もいないあたしが言うことじゃないか、やめとこやめとこ」とぐっと言葉を飲み込むのだった。
†
「という訳で」
「……こわ、こっわ!?」
今日、俺――赤坂怜也が加藤たちと遊びに行ってる間の話を聞いて、俺は震えが止まらなかった。思わず昇竜コマンドをしくじるくらいに手が震えていた。
壁にかけたモニターを対面にベッドに座り、格闘ゲームの練習をする俺と、二段ベッドの上を根城にする丈。
そんな状況で他愛ない話をするというのが俺たちの部屋での過ごし方になっていた。
「嫌だなあ、怖がる事は無いだろう。怜也がいつも大迷宮の中でやってる事と大して変わらないだろ?」
「え、えええ……そうかなあ……」
丈からすると、俺はそこまでえげつない事をしてるように見えてたのか……。
「ともかく、怜也の魔力が無いのはどうやら本当に先天的なもので先生の差し金では無かったみたいだよ?」
「先生が俺を戦士にしたがってたっていうのがもう信じられないんだけどな……」
術師ではない、前衛型司令塔としての素質? みたいのを感じてたとかそんな事を草苅ステラ先生に話してたとか。正直信じがたい。
「けど、先天的ってどういう部分の話なんだろうな?」
「それね。どこまで本当かともかく、大迷宮ってオカルト的――というのも語弊があるね。科学で解明されてない人体の構造とか感覚的な物を利用してるらしくて」
「第六感とかそういう?」
「そういう。あるいは脳のシナプス構造の個人差とか言ってたかな? ともかく、そういった個人差で起こりうる事なんだってさ」
「ははあ、なるほどなあ。……もしかして、この世界に魔法が実在したとしたらやっぱり俺は使えないのかな?」
「ははは、ありうるね」
なんてオカルトというか他愛ない話はさておき。
「でもそれって、何も解決してませんよね?」
「お見合いが上手く行ったら追加情報が入るよ。これは相手をきちんと選ばないとね」
「止めて差し上げろ……!」
「ええ? 誰も不幸にならないじゃないか。こういうのをWinWinの関係っていうんじゃないの」
「くっそ……否定しづれえ……」
なまじ、攻略情報というよりも俺の個人的なステータスの話だから文句も言いづらい。
「ま、その辺はさておき。今度の連休、どうするの?」
「え、連休?」
俺があまりにマヌケな声を出したからか、丈が身を乗り出してきた。
そして「あ、こいつ本当に分かって無い」って顔をした。
「……大迷宮と寮の整備と全清掃入るから、学校に残れないって話。もしかして忘れてた?」
「え」
忘れてたどころか聞いて無かった。いや、もしかしたら、聞き流してた……?
「……まあ、実家に帰れば良い話だろうけど」
「確かにそうなんだけど。折角だし、うちの別荘に行こうか、なんて話をしようと思っててね」
友人と、連休に別荘。
ちょっとした小旅行。
――それがまさかあんな事になるなんて。この時の俺は、ちょっと位しか思っていなかったのでした。
■
メイキュー! #レベル上げ配信 森崎亮人 @morisakiR
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