レベル上げ5回目・休日の過ごし方、怜也と椎奈と+1の場合。

<前回のあらすじ>

 椎奈が着せ替えで遊ばれてバニーだったりした。

 怜也は先輩達のスイート寮で久々に格闘ゲームを謳歌していた。



 †



 女子寮・椎奈と瑞樹の部屋。


「瑞樹ちゃん、男の子と遊びに行く時ってどういう格好すればいいん?」

 椎奈の突然の言葉に、瑞樹は床の上でストレッチをしてる姿勢のまま固まった。

 床で足を広げ、片足を折り曲げるのはストレッチというよりもヨガだった。そのままの姿勢でゆっくりとベッドに座る椎奈の方を見る。

「それ、赤坂とよね?」

「うん、そうだけど」

 そこでやっとほっとして体を崩す。他の想像はし辛かったが、世間知らずが悪い男に騙されてほいほいついていく可能性も無いとは言えなかった――。

 ――ところで、やっと思考が普通に回る。

「んんんん? 赤坂と遊びに行くって、もしかしてやっとデート!?」

「ち、ちがっ!? そういうんじゃないと、おもー……おもう?」

「……違うの?」

「ええと、2人きりじゃないし。デート、じゃないよね?」

「あ、うん。それは多分違うわ。誰と行くの? 蝶野?」

 自分が誘われてない以上、他の交遊関係がどれだけあっただろうか。新田辺りもありうる。

「えと、村瀬先輩」

「……また珍しい所が。何しに行くのよ」

「怜也君の訓練?」

 何故疑問形なのか。

 その理由を聞くと、話は少しさかのぼる。


 †


「あーた、このままじゃ2階でも辛いし3階で完全にお荷物になるわよ?」

「なりますか」

 俺、赤坂怜也が村瀬先輩にとっつかまって、堀井の兄貴の凱先輩とその相棒の浦手先輩のゴージャス寮室に行っていた時にそう言われた。

 ちなみに今も村瀬先輩と格ゲー中で、後ろのキッチンカウンターからこっちを見てる浦手先輩と話していた。

「これは、舐めプ……」

 連敗が続いて荒んだ目をしている村瀬先輩がつぶやく。

「このゲーム1番得意なんで」

 今やってるのは伊達に紺相手にも勝率高い作品じゃない。こいつだけに関して言えば、大会でも結構な成績を残している。

 ただ、今日は珍しく蝶野に連れて来られた加藤が来ていた。

(こんな感じでずーっとゲームやってケンさんとダベってるだけだから……)

(……ほんとにゲームやってるだけなんねぇ)

 俺たちとゲームを見てる分にはいいけど、大事なのは浦手先輩の話しだ。

「たまに居るのよ。怜也ちゃんみたいなステータスぎりっぎりで戦士やってる子。とはいえ、ステータスなんて飾り……とまでは言わなくても、他に大事な事もあるし、それでドロップアウトするとも限らなくてネ?」

「あー良かった、それで諦めろって言われ無くて」

「うんうん。あーたのパーティの盾っていう方向性も悪く無いわ。うちのリーダーの凱だって役割としては同じだし」

 3年生最強の盾として有名だったし、それも知ってる。

「けど、ええ。2階から敵の対応力も上がるし、ただ盾もって突っ立ってるだけじゃ仕事になんないのよネー」

「はいはーい、ちなみに凱さんってどんな感じ?」

 蝶野が手を上げてそう聞いた。

「剣と盾持って突っ込んで、ヘイトを集めて大暴れ。で、漏れたのと厄介なのをアタシと政子が斬ってく感じね」

「ウチだとそれ全部カトーがやってるヤツだ。漏れたのは、あたしも倒すけど」

 さらに漏れたのは堀井がホームランしたりする。

「でも、赤坂くんじゃ敵に突っ込んだらそこで死ぬよ?」

 加藤が夢も希望も無い現実をあたりまえの用に言う。

「なにも真似しろって言ってんじゃないけど。やるなら何かしら“敵を引きつける”手段が無いと盾役も出来なくなるわよ?」

「ヘイト高める手段かー」

 他のゲームだとそういうスキルがあったりするけれど、ここでは立ち回りがほぼ全てだ。

 それに大迷宮のモンスターも、数値で計れる感じでもない。先制で殴ったからとか、ダメージが大きいからとかだけでターゲットを選ばない。

「怜くん、なんか考えて無いの?」

「2階に入ったらクロスボウ調達する予定だった」

 巻き上げ式の機械弓。連射は出来ないけれど、盾と一緒に持てるし、俺でも威力を出せる。後は仲間に誤射をしなければいい。

「弓かあ、触った事無いなあ」

「あれ。カトー、ああいうのって猟で使わないの?」

「弓矢の猟は禁止されてるんよ?」

 すると、キャラ選択画面のまま村瀬先輩がくいくいと俺の袖を引く。

「訓練に最適な所が、ある……」

「お、そうなんですか?」

 すると、カウンターの方から浦手先輩のため息が漏れた。

「ああ、あそこね。確かに飛び道具の訓練にはいいけど――政子、あーたそろそろ負け分返す意味でも、怜也ちゃんだけじゃなくてそっちの子の面倒もみたげなさい」

「ん、わたし?」

「そ、わたしちゃん。駅前にあってあたし達も何度も使ってる所だから、一緒につれてったげなさい」

「……しょうがない」



 †



「――みたいな感じで」

「ああ、まあ、遊び……遊びね? うん、でも3人? 蝶野は?」

「すごい悲しそうな顔で、補習言うてた」

「……何してんの、あの人」

 別に留年している訳ではないが、年上が補習喰らう状況に、何を言えば良いかすこし困る。

「まあ、なるほど。奥手も奥手なあんた達がいきなり2人でデートなんて無いだろうし、そういう流れね」

「ふぇ? え、あうん。え、ええと、うん?」

 多分自分の言いたい事や思ってる事はあんまり伝わって無いんだろうなーと思いつつも、それはそれとして服の相談をしてくる所で意識はしてるのだろうな――。

「……まあ、良いわ」

「何がっ!? 気になるんだけどっ!」

 今自分が抱いた感情を椎奈に上手く説明出来る気がしない。例えば、こいつらとっととくっつけば良いのに、とか。どうにもならなくなったら面倒見るのもやぶさかではないけど、その初デートめいたものの主導が例の何を考えているのか分からない先輩であるとか、こんな自分を新田や蝶野が見たら変な邪推をするだろうとか……!

(……実際、嫌いではないけど、彼氏……あれが、彼氏?)

「瑞樹ちゃーん?」

「――ええ、今はいいわ。ええと、加藤の私服よね。……そういえば普段の格好知らないわ」

「休みの日も、わたしあんまり学校から出んもんねー」

 なまじ学園の敷地内に大体揃っているし、時間が出来れば剣の訓練にいそしんでいるので、大体ジャージや自前の運動着だ。

「そうだ、ミニとかやめときなさいよ。絶対はしゃぐというか普段から危ないんだから!」

「え、ええと、短いスカート……制服しか持ってないよ?」

「……それはそれでどうなの」

「い、いや、そんな事言われても。実家の周り、山ばっかでスカートとか危ないし」

 危ないの意味が、見た目じゃなくて防御力の話ではないだろうか。

「ええと、どんな服持ってるの? その辺見せてもらわないと」

「あー、ええとこんなんだけど」


 という事で、着てみた。


「……意外と、ちゃんとしてるじゃない」

「え、えへへ……そう? 良かったぁ」

 髪もまとめられるハンチング帽にジャケット、ホットパンツにストッキング。

 露出は少ないけれど、むしろそれは良し。それでいて野暮ったくは無いし、ちゃんと女の子していた。

「あの色気の無い下着しか持ってなかった子が、どうしてこんな、ちゃんとした私服を……」

「え、ええと……お母さんが、選んでくれてて」

 加藤母有能。

 そして他の私服を改めて見て気づく。

「加藤あんた、ストッキングとかオーバーニーばっかなのね。足出すの苦手?」

「あ、ええと、うん。足、結構怪我の後残ってて……ね?」

 そういえばそんな話をしていたし、風呂でうっすら赤くなってるのも見ていた。

 自分とは程度が違うけれど、足がコンプレックスという所に共感する――が。

「あ。だからビキニの時もマントで胸とかお腹じゃなくて足ばっかり隠してたの!?」

「うん。なんか、怜也君……瑞樹ちゃんの足とか良く見てたし?」

「あの眼鏡ぇ……どうせ加藤見るなら胸とか見てればいいものを」

「ほんとにね」

 あっさりそう言う椎奈を、瑞樹は無言で見つめてしまうのだった。



 †



 怜也です。

 昨日の夜、加藤と村瀬先輩と一緒に出かけるなんていうリアルが充実しすぎている休日の過ごし方にソワソワしすぎて、寝付けなかった怜也です。

「なんか眠そうだけど、大丈夫?」

「お、おう……! だ、大丈夫だぞ」

「そう? ならいいけど」

 怜也です。

 初めて見る私服の加藤が、なんか知らない子みたいで初めて会った時くらい落ち着かない。あとなんか良い匂いする。

 今も俺を心配してちょっとかがみ込んで顔を見てくるの、距離が近くてすごい、ええと、すごい(退化)

「赤坂……加藤がくっついてくるのなんて今までに何度もあったでしょ。だらしない上にみっともない」

「今まで彼女とかいなかったのに無茶言うなよ!?」

 見送りついでに出て来た堀井が、思い切り呆れた顔をしてる。

「……いなかった? あれ、彼女……一緒に、ゲーム大会、出て無かった?」

「先輩、あれは男です」

「……Really?」

 なんでそんな流暢な驚き方を。あと先輩もちょっと近い。

「……何故逃げる」

「いや、だから。あの、先輩も顔近いです」

「だからあんた、普段もっと近くというかゲームしてたとき向こう寄っかかってたじゃない」

「ゲーム中も別!」

 あと紺がだるいときにもたまにあったし、先輩もサイズが同じ位なんで気にしてなかったというか。

 その先輩は落ち着いた色のロングスカートで、これもまた制服とは全然違って、その、ちがうひとみたい(退化)

「……そんな調子で訓練とか出来るの?」

「え、ええと……?」

 正直自信がない。

「それは、ぜったい平気」

 先輩がそう言い切る理由が分からなかった。



 †



 バスに揺られ駅前まで。そして先輩の言う『訓練場』に着いてみれば言い切った理由が分かった。

「ここ、ゲームセンター……だよね?」

「そう。学園提携の」

「あ、なんか予想出来た気がする。つまりここになんか訓練に役立つ体感ゲームとかあるんで――先輩?」

 慣れた動きで札を100円に崩し、対戦ゲーム台に向かおうとしてたので流石に止める。

「これ、先輩がここのゲームで赤坂君と遊びたかっただけじゃ?」

「ぷひゅー」

 加藤の言葉に、先輩が下手くそな口笛を吹いて目を逸らす。

「先輩――」

「わ、ワンコイン。さ、最初だけだから。大丈夫、ぜったいだいじょうぶだから」

 ……黒髪巨乳で小柄な先輩が言うと、思わず『逆なんじゃ』と俺の悪い部分がささやいたけど、そうじゃない。

「ではなくて。浦手先輩に言いますよ?」

「…………それは、困る。オヤツ抜きとかにされる」

 やっぱり、剣豪共から譲歩を引き出すのは胃袋か。

「ちゃんと訓練からしましょう。一通り終わったらゲーセンで遊びましょう」

「……しょうがない。どうした加藤?」

 なんとか先輩を本道に戻し振り返ると、加藤が完全に固まってた。ついでに他の客がこっちをすごい見てた。気持ちは分かる、俺も待ってる間にこんな女の子が来たら見る。

「あの、ゲームセンター、初めて来て。な、何すればええん? え、えと……ゲーム?」

 その固まり方と戸惑いっぷりに反省したのか。

「……こっち。2階にあるから行こ?」

 お姉ちゃんのように加藤の手を引いて案内していった。

 ……カメラで撮っておけばよかった、と気付いたのは1人でぼーっと眺めきってからだった。


 どうやら迷宮学園の生徒手帳がそのまま会員証になるようで、そのまま体感ゲーのスペースに入ったんだけど。

「遠距離武器の訓練。ここでは、ゲームで出来る」

 ちなみに学校のはシューティングレンジみたいな物で素っ気ないらしい。

「なるほど」

 と言うことでやってみた。


「……あの、先輩。3面で死ぬんですけど」

「むしろ初見で2面突破出来るのはすごい」

 との事だけど、基準が分からない。ちなみにブースはドームの中で立ち位置固定。大迷宮の技術なのか、ゴーグルを付けずにVRゲーやってる感じだった。

「わ、わわ!? え、ええと! 矢、矢はどうするん!?」

「加藤ー、コマンドから出して手に持って装填。巻き上げはレバーな」

 今は俺の代わりに加藤が入って、ブースの中でわたわたしていた。

「……慣れてたけど」

「ゲームなんでインスト見れば」

 矢を装填しておけば、引き金を引けば良いだけ。威力も十分。問題は連射ができないけど、それはまあ。

「蹴っても当たらん!?」

 器用にブースの中で回し蹴りを入れるが、当然あたらずにライフを削られる加藤。

 ――ホットパンツの回し蹴りって、良い。あ、駄目だこれ。なんか新しい属性に目覚めそう。

 そしてそのままモンスターに殺到され、加藤もゲームオーバーになった。

「無理ぃ……むいとらん。ナイフ投げる方が良い」

「そういうのも向こうにあるから、後でやろ?」

 と言うわけで、ここにある体感ガンシューっぽいゲームをたっぷり堪能した。

 滅茶苦茶楽しかったので通おう。



 †



「……寝てるね」

「寝てますね」

 帰りのバスはガラガラで、加藤は疲れたのか俺の肩によりかかって寝ていた。

 その反対では、ゲーセンのプライズをたっぷり取って、ぱんぱんになった袋を両脇に抱えた先輩が座っている。

「……ずいぶん、はしゃいでたけど」

「ゲームそのものをやったことが無かったんで、楽しかった……んならいいけど」

 訓練、という名目で必死になってたのかと思いきや。単に集中して肩に力が入っていただけっぽかった。

 というのも、一通り“訓練に役立つやつ”を終わらせた後、先輩があまりに「待て」をしすぎた小犬みたいな目をしていたんで普通のゲームをやる為に1階に降りていったんだけど。その時にどうせなら加藤も出来そうな音ゲーやリズムゲーをやったら同じような必死な顔をしてた。

「無理に付き合わせたかなー」

 加藤はその辺り気にして無理でも付き合ってくれそうだし。

「……大丈夫、楽しんでた」

「そうですか?」

「うん。2人プレイの時とか、楽しそうだった」

「それならいいんだけど」

 あと、先輩と格ゲーで対戦してる時に身を屈めて俺の画面をのぞき込みに来て色々聞かれたりすると、なんかもうすごく、あれだ。

 デートみたいで、落ち着かなかった――とは言えない。

「……んぅ」

 そして当の本人は警戒心無く、そのまま膝に転がりそうな位によりかかってくる。やわらかい。

「でも、この子すごかったね……揺れてて」

「揺れてましたねー……はっ!?」

 思わず受け答えをしてしまうと、先輩が邪悪な笑みを浮かべていた。

「ひどい、はめられた!」

「……ふふふふふ、いぇーい」

 そんな人じゃないと思ったのに! やっぱり蝶野の知り合いだったか!

「まさか、だからダンスゲーの時、常に横に……!?」

「ふふふ……」

 恐ろしい……! 俺は2プレイの時は加藤の方は見てないし、待ってる時も後ろからだったから殆ど見えて無い。

「……ところで、赤坂君。これは大事な話なんだけど」

 今までに無いくらい真面目な目をしていた。何の話か、と身構える。

「――胸派? 尻派?」

「…………先輩?」

「……これは大事な話。年の上下と、大きいのと小さいのどっちとか、受けか、攻めか……」

 やばい、遅すぎたんだ……腐り気味だ! こんな話、紺とは結構してたけど!

 あともしかしたら、意外と堀井とも話せるかもしれない。

 うん。本人隠してるだろうけど、堀井が若干腐り気味なのは気付いてるけど、本人の趣味思考は自由だ。

「……細いより……全体的に柔らかそうな方が」

 もう堀井たちにもバレてる程度の白状をする。なお今日一日で、ホットパンツが大好きになってしまった気がする。これはとても言えな――。

「……あと、ホットパンツ好きになった?」

「黙秘権と武士の情けを両適用っていけます? ――対戦で勝った分を使います」

「……勝負の、借りは……しょうがない」

 よし、通った。

(……あー、そっかー……怜也くん、この格好きらいじゃないんねー)


 ――ちなみに、さっきバスが跳ねた時に加藤が実は起きてた、と知るのはずっとずっと後の話だった。



 †



「ダンスゲーね。2人とも揺れてた?」

「揺れてた」

 寮の部屋で、結構こういう話をするようになった丈に聞かれたまま素直に答える。

「加藤に蝶野に堀井に先輩――怜也はそろそろ刺されるんじゃないかなあ」

「加藤と蝶野は、真面目に考える所だけど堀井と先輩はそういうのとは違うんじゃ無いか」

「2人に関して下手な言い逃れしなかったんで、僕は味方で居てあげようかな」

 何て言いながら、スマホの角を口元にあててすげー意味深な目をしてくれた。これ女子なら勘違いするやつだ。

「で、どうだった。女の子じゃなくて武器の方」

「良さそう。2階でも作れそうなのがいくつかあったから、出来れば調達したい」

「ふむふむ、それは良かった。こっちも怜也が居ない間に家鴨先生からちょっと面白い事が聞けたんだよね――」

 面白い事?

 しかも家鴨先生絡み?


 その丈の笑みに、ちょっと嫌な予感がした。

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