18
月影の行方が分からないまま、陽向が烏丸神社に戻った時には辺りは暗くなり、月も昇り始めていた。
居間に陽向が顔を出すと、馨が学校から帰って来てゲームをしていた。こたつの上にはやりかけの宿題が広がっていた。
「なんだ、馨か」
陽向は馨を見て、残念そうに言った。月影がいるんじゃないかと期待していた。
「もう、仕事終わったのかぁ?」
月影ならそう言いそうだが、馨に言われると腹が立つな。普通は朝方帰って来るのだからそう言われても仕方ない。
「まだだよ。それより泪戻って来てないか?」
「帰って来てないと思うよ、見てないから。それか部屋にいるんじゃないの。まず人に聞かないで自分で行動した方がいいよ、テラス君」
馨は、ゲーム画面を見ながら言った。
本当に人を小馬鹿にしやがって。
「分かってるって、そんなこと。一言多いんだよ。そんなんだから背が伸びないんだよ、馨君」
そう言って、陽向は月影の部屋に向かおうと居間を出て行った。
馨は、嘘でしょと言って振り返った時には陽向はいなかった。
陽向は廊下を歩いていると、馨が何か叫んでいるのが聞こえた。
そう言うのを何とかの遠吠えと言うんだよなと、考えてみたが、陽向には分からなかった。
「泪、居るか?」
月影の部屋の戸をコンコンと叩いた。少し待ってみるが、返事がない。
「開けるぞ」
と、いいながら開ける。開けた瞬間、もしかしたら中から何か飛んで来るかもしれないと思い、構えた。
部屋の中は暗く、誰もいなかった。
戻って来た様子もなかった。丸窓だけが闇の中でぼんやり浮いて見える。
「どこに行ったんだよ。行き先くらい言ってけよ」
思い当たるところは一つあるが……。
どうしようか悩みながら廊下を歩いていると、買い物帰りの奈都子が先を歩いていた。
「奈都子さん!」
陽向が後ろから声をかける。
「あらぁ、テラス君。今日は早いのね。みんなで晩ご飯食べれるね」
振り返った奈都子の表情は笑顔だった。
「いや、そうじゃなくて、泪見てない?」
「え、一緒じゃないの?」
「途中で別れてさ。どこ行ったのかなと思って戻って来たんだけど」
陽向が悩むと奈都子も買い物袋を持ったまま一緒に悩んだ。
「んー、泪さんのことだから依頼主のお宅に行ったんじゃない?」
「やっぱり、そこしかないか。また行って来る」
陽向は、ありがとうと付け足してその場を後にした。奈都子は月影と喧嘩でもしたのだろうと思っていた。
「どうかしたのか」
そこにミチルがいつもの優しく包み込むような笑顔で通りかかった。
「いえ。テラス君が一旦戻って来てたんです」
「そうか。私は本殿にいるから何かあったら声をかけてくれ」
そう言うと、烏丸は本殿の方へ歩いて行ってしまった。烏丸の背筋の良い歩き方はとてもじゃないが老人には見えない。
奈都子は夕飯の支度をしなくちゃと思い、お勝手へ向かった。居間の前を通りかかった際、馨に宿題の進み具合を聞いたのは、言うまでもない。
しぶしぶ馨が宿題の続きをするのもまた言うまでもない。
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