10
一人篝火を見つめ待つ隆弘は、もし友子が目を覚ましたら何を喋ればいいかずっと考えていた。燃える勢いの衰えた炎を練習にもごもごと。
一瞬、炎が消えかかり、そして、勢い良く吹き出した炎の中から、月影と陽向が出て来た。
驚いて顔を腕で覆った隆弘。ゆっくり腕をどける。
「月影さん……。と、友子は……」
「えぇ、大丈夫です。すぐに目を覚まします」
月影は友子の夢の中では一度も見せなかった笑顔で隆弘に答えた。普段はまったく笑顔の笑の字も表情に現さない奴だと思っていたけど、やっぱり最後は笑顔を見せるのか。陽向は笑顔の月影を見て思った。
「あっ、ありがとうございます」
隆弘は月影と陽向に深く頭を下げる。
すると、友子の目が開き、虚ろな目でゆっくり辺りを見回しているようだ。
「友子。友子、わかるか?」
隆弘が慌てて声をかける。
「……お、お父さん?」
これが現実なのか、まだはっきりと理解は出来ていないようだった。しかし、月影の姿が目に入り、目が合うとこれが現実なんだと理解せざるを得なかった。
お母さんもいて欲しかったかもしれない。でも……。月影に言われたことが頭によぎった。
――これからあなたが現実世界で立ち向かわなきゃ行けない場面。
月影は、友子が目を覚ましたことを確認して部屋から出ようとする。
「では、私たちはこれで失礼致します。それでは良い日々を……」
「あの、おいくらお払いすれば……」
と、慌てて隆弘が聞く。
「後ほど請求書をお送りいたします。それとさきに福夢はいただきました」
「ふくめ?」
「はい。
月影はそう言い残して、玄関から外へ出た。。陽向は玄関の外で一礼し扉を静かに閉めて立ち去った。
ポカンとしてしまった隆弘。すぐに友子の部屋に向かった。すると、友子がゆっくり起き上がる。
「友子……。大丈夫か」
「……お父さん……私」
隆弘は、何も言わずに抱きしめた。結局、隆弘はいろいろ考えていたことを忘れてしまっていた。何より娘の意識が戻って来たことが嬉しくてたまらなかった。
友子もこんなに自分を心配してくれる父で良かったと思った。
「お父さん、私、行きたい大学があるんだけど……」
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