終焉へと向かう世界

第21話 第三の封印

【報告書No.18】

 えっと……あの公園で会ったおとなしい男の子の姉が愛佳ちゃんで、愛佳ちゃんは黒城ってやつに好意を抱いてて、菜の花って子が愛佳ちゃんloveで……って、これってもしかして、三角関係ってやつ!? は、初めて見た……なんて、乙女かあたしは!!


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


【地下迷宮ー第三層最深部ー】


「いよいよここまで来たわねッ」


「……そうだな」


 黒髪の少年の黒城と青い鳥のピーちゃんは、陽光学園の地下迷宮、第三層最深部の重厚な扉の前にいた。


「それにしても、まさか『非干渉主義』のアンタが、誰かさんのためにこんな所まで来るとはねッ」


「……あの時……陽光公園で初めて見たあいつが、ヒナコと会う前の俺と重なったんだ」


「たしかに、アタシと会う前のアンタって、目の前で困っている人がいても普通に素通りだったもんねッ」


 皮肉を含んだ言い回しだったが、黒髪の少年はコクリと頷いた。


「……一年前の春、俺は学校の廊下で虐められていた女の子を、それとなく助けた。だが、事実はすり替えられ、俺に対する悪い噂だけが独り歩きした」


「学校ってところも大変なのねッ……」


「……俺はそれ以来、誰とも関わらない『非干渉主義』を貫いてきた。人間関係は全て捨てた。学校にも通えた。だが、心にポッカリと風穴が空いた気分だった。そんな時、現れたのがお前だ、ヒナコ」


「黒城ッ……」


「傍観者になっていれば楽なのに、進んで台風の中に飛び込んでいく。周りも巻き込んで、面倒な事件にも関わっていく。だが、不思議と嫌な気はしなかった。お前といると、なぜかワクワクするんだ……」


 青い鳥は、弟子の成長を目の当たりにした師匠のように眼を潤ませていた。


「よく言ったわッ! アタシもアンタを新しいパートナーに選んだかいがあったわッ!」


「……いくぞ、ヒナコ。これが俺たちの最後の戦いだ……」


「そう、アタシたちの戦いはこれからよッ!!」


 一人と一羽は、謎のハイテンションのまま重厚な扉を開けた。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 真っ暗な大広間はに、左右から真ん中へスポットライトが照らされる。


 スポットライトが照らしているのは、秘宝が置かれた台座だ。真上には空中ブランコが2つあり、部屋の脇にはバランスボールやフラフープの輪のようなものが無造作に置かれている。


 ——トンストントンストン


 軽快な足音と共に、部屋の奥から、何者かが黒城達のいる方向へ近づいてくる。スポットライトがぼんやりとその正体を照らす。


「やっぱり黒幕はアンタだったのねッ……ジェスタークラウンッ!!」


「そう、ボクちん、ジェスタークラウン♪」


 ピエロのようなその人物は、以前陽光公園で『ハッピーチケット』なるものを配っていたあの人物だ。


「最初から怪しいと思ってたのよッ。金のハッピーチケットなんて特にねッ」


「エロ?」


「だっておかしいじゃないッ! いいことをした人しか入れないプールや遊園地なんてッ。いい子達を集めて、一体何が目的なのッ!?」


「ボクちんはただ……いいことをした子には幸せになって欲しかっただけで……」


 ジェスタークラウンと名乗ったピエロは、両手の人差し指を合わせてウジウジと、ションボリした表情を見せる。


「騙されないわよッ! いくわよ、黒城ッ!!」


「ああ……!!」


「チミ達もいい子だと思ってたんだけどな……」


 ピエロはションボリとしたまま、部屋の真ん中にある台座に置かれた虹色の宝箱の鍵を開ける。


「どうしても封印を解くと言うなら……死 ん で も ら う よ♪ 開放、ジェスタークラウンドラグーン♪」


 宝箱からは、びっくり箱のような特殊な演出で龍の頭が飛び出す。龍は身をねじらせながら、腕、胴体、足、尻尾と這い出る。


 ドラゴンの顔はピエロのように白塗りで、右眼には星のマーク、左眼には涙のマークのペイントが施されている。


[SSランク秘宝ージェスタークラウンドラグーンー]


「まさにラスボスって感じねッ……」


「気をつけろヒナコ、ドラゴンは最強の種族だ……」


「ええッ! あんな見た目でも、油断は禁物ねッ!」


 ——ギギギギギッ


 突如、黒髪の少年たちが入ってきた扉が開いた。扉の前には、長い黒髪をなびかせた、お人形さんのような雰囲気の、ジト目の少女が立っていた。


「ちょっと待った、なのです」


 ジト目の少女の間延びした声が大広間に響く。


「エロ?」


「げげッ……アイツは……」


「ワタシの学校テリトリーで好き勝手することは、この白樺しらかば すず 元生徒会長が許さないのです」


 その人物は、公園の滑り台に挟まって眠っていたのをパレットに起こされていた少女だ。


(フッ……決まったのです)


 ジト目の少女が登場の余韻に浸っていると、青い鳥がピィピィと騒ぎ出した。


「最悪だわッ! 敵がもう一人増えたッ!!」


「……最近見ないと思ったら、深夜の校舎の、こんな所で何をしているのです?」


「エロエロ?」


 少女は表情に影を落としながら、クスクスと薄ら笑いを浮かべながら黒髪の少年と青い鳥のもとへ近づいていく。ジェスタークラウンは状況が理解できないのか、指をくわえて(本当にくわえて)首をかしげている。


「ダムドレオも暴れたくてウズウズしているみたいなのです……ワタシたちも混ぜてほしいのです♪」


 ジト眼の少女がコトコトと激しく揺れている迷彩柄の秘宝を見せると、青い鳥は絶叫した。


「イヤァァァァッ」


解放リベレイト、ダムドレオなのです!!」


[Sランク秘宝ーダムドレオー]


 宝箱の中から、一頭の真っ黒い隻眼のひょうが飛び出した。青い鳥の反応を見るに、相当な因縁があるみたいだ。


「グルルルルル……」


「ギィヤァァァァッ!!出たァァァァ!?」


「……Dark Moon Dominion Leopard。通称ダムドレオ。第一級絶滅危惧種に指定されている獰猛どうもうな黒豹だな」


「って黒城ッ、なんで冷静に解説してんのよッ!?」


「グルルァァァァ」


 黒豹が青い鳥に襲いかかる。青い鳥は空中へとパタパタと避難するが、黒豹は周りに置かれているサーカス道具をジャンプ台にして青い鳥へと何度も飛びかかる。


「いい加減に……しなさいッ!!」


 ——バシン


 青い鳥はダムドレオを翼で弾き飛ばした。ダムドレオが飛ばされた先には、あのドラゴンがいた。ダムドレオの体が勢いを伴ってドラゴンへ衝撃として伝わる。


「グギャオゥゥゥゥ!?」


「エロロロォォォォン!?」


「って、アンタの鳴き声も主人と同じかよッ!?」


 危機的な状況にも関わらず、青い鳥は軽快なツッコミを入れた。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「チミたち、なかなかやってくれるね♪……けど、その程度じゃボクちんのジェスタークラウンドラグーンはビクともしないよ♪」


「ケラケラケラケラ」


 道化龍はグニャりと起きあがった。まるで相手を嘲笑うかのように。


「ッ……! 全然効いてないわッ!?」


「気をつけろ、ヒナコ!来るぞ……」


 道化龍の肘の関節が、バネとなって伸びる。青い鳥は空中へ飛びながら回避するが、どこまでも伸びる腕に捕まってしまう。


「なんてトリッキーな動きなのッ!? ヒャウッ!」


「エロエロエロ♪ 捕まえた♪ 」


 ——ミシミシミシ


「ギィヤァァァァ!!」


「……ヒナコ!!」


 滑稽な見た目からは想像もつかないような怪力で、ドラゴンは青い鳥を握りつぶす。


「全身粉々にしてあげるよ♪」


 すばしっこい小鳥も、捕まってしまうと抜け出すのは困難であった。体が悲鳴をあげる……


 ——ヒュン……ザッ……


 黒い影が、青い鳥を助けに行こうとしている黒髪の少年の目の前を横切った。「何が起きた……?」と考える間もなく、ドラゴンのバネの腕が食いちぎられ、ドサリと床へと落ちる。


「ドラグーン!? 一体何が……!!」


 黒い豹は、真っ黒なオーラを身にまとっていた。

 ジト眼の少女は、ピエロよりも不気味にクスクスと笑う。


「ダムドレオ……D・D・M《ダークダイブモード》なのです」


 黒豹の赤い瞳が不気味な光を灯している。体の色は完全に闇と同化して、意識すらも闇に全てを委ねているような気さえ感じられる。


「も、モードチェンジだってー!? チミ達はまさか……♪」


「そう、ワタシ達は、秘宝をただ開宝かいほうするものではなく、生き物の真の力を解放かいほうするもの……『解放者リベレイター』なのです」


 ダムドレオは目にも止まらない速さで左右のスポットライトをなぎ倒す。部屋は完全な真っ暗闇となった。ジト目の少女の足音がコツコツと聞こえる。


「もう一度聞くのです。ワタシの学校テリトリーで何をしていたのです……?」


「くっ……ドラグーン♪」


「遅いのです!」


 ——ガキン!!


 暗闇で、何かと何かが激しくぶつかり合う音だけが響いた。


「それともう一つ……黒城 弾を倒すのはワタシなのです。抜けがけは……校則違反きんしなのですよ」

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