紫陽花満開なり

桜姫 :……妾は妖に魅入られる前に、ある方に恋をしたのじゃ。

その後お会いすることも叶わず……。

じゃが、妖になってからお会いすることが出来た……。

話すことは叶わんかったが……。

……きっとこれは運命なのじゃな。


碕宮 :……桜姫?


桜姫 :……これだけで気が付け。

若宮よ、女心は秋の空……と言うであろ?

……疎いのも考えものじゃ。


碕宮 :え? ……え?! ええええ?!


桜姫 :ほほほ……。

娘が一人、待っておるのじゃろ?

泣かせてはいかぬぞ?


ナレ :屋敷に戻ると、奏が何度もつまずきながら駆け寄って参りました。

顔は涙で崩れております。


篝 :おいおい、奏ぇ。

ご主人様のお帰りだぞ?

ひでぇなぁ、おい?


奏 :若様ぁぁぁ! よくぞご無事でぇぇぇ!うわぁぁん! ……んが!


ナレ :……転びました。


硯 :……奏、本当にあなたって人は慌て過ぎですよ。


ナレ :優しい眼差しで幼馴染みに手を差し出しました。


奏 :はひ……す、硯?

何か……雰囲気が違い……ますよ?

て……怪我! 大丈夫?!


ナレ :流石の奏も異変に気が付きます。


硯 :……問題はありませんよ。これしきのこと…。


篝 :無理するなよ。女なんだから……。


硯 :か、篝様……らしくもないことを仰せにならないでくださいませ。


ナレ :何かを察し、にまぁっとする奏でございました。


奏 :(若様と硯……お似合いね、ふふ)


碕宮 :ただいま、奏。よく留守を守ってくれた。


奏 :は、はい! 有り難きお言葉でございます!

……あれ ?そちらのお綺麗な姫様は?


桜姫 :お初にお目に掛かる。妾は桜じゃ、よしなに……。


奏 :は、はぁ……。

あ! 私は奏と申しまする!


桜姫 :奏……良き名じゃ。可愛いのう。


奏 :はわわ……滅相もございませぬ!

ナレ :優しく微笑まれ、赤面してしまいます。


桜姫 :……紫陽花か。綺麗よのう。

十余年も桜しかみておらなんだ……。


ナレ :平穏が訪れた紫陽花の屋敷。

これからは何事もなく、過ぎるよう祈るばかりでございます。

紫陽花の屋敷は何の変わりもなく、満開。

来年の春には……桜が咲いているやもしれませぬ。


終幕~

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桜舞う清き鬼姫 姫宮未調 @idumi34

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