狂い咲きのあとに

桜姫 :……桜よ、我が分身たちよ、踊るのじゃ。


ナレ :その声を待っていたかのように、桜の花びらが盛大に十六夜を取り囲んだのでございます。


十六夜:うう……桜姫!何故動ける……!


桜姫 :……愚問じゃな。ここは妾の屋敷じゃ。

碕宮!早う、ヤツを映せ!

妾がヤツを抑えられている内に!

ヤツは『月』の妖ぞ!


ナレ :慌てて碕宮様は、鏡を十六夜に向けるのでございます。

けれど、気が付いてしまわれました。

その手鏡には……桜の樹も映っていたのでございます。

そうここは一面、桜の屋敷……。


碕宮 :……まさか!


桜姫 :うろたえるでない! それしか、友は救えん!


ナレ :言われるがままに手鏡を割る碕宮様。

すると、今度はすんなりヒビが入ったのでございます。


十六夜:あ……あああああ!!


ナレ :断末魔の叫びと共に十六夜が光になり、弾けたのでございました。


桜姫 :……それでよい。やっと、解放される……。


ナレ :静かに桜姫様も薄くなり始めたのでございます。


碕宮 :桜……姫……。


ナレ :碕宮様は絶望に支配されました。

そして、三人はそのまま気を失ってしまったのでございます……。


◇◆◇◆◇◆◇◆


碕宮 :ん……こ、ここは……。


ナレ :そこは荒れ果てた屋敷と、枯れた桜の樹々が立ち並んでおりました。


硯は篝様に抱かれ、眠っておりました。


碕宮 :……桜姫。


ナレ :想い人を失ってしまったという、喪失感に打ちのめされそうになったその時……。


桜姫 :……呼んだかの?


碕宮 :え? 桜……姫?


ナレ :視界の先に一回り小さな桜姫がおりました。


桜姫 :……説明が必要なようじゃな。

妾は元は人間じゃった。

そなたに出会ったとき、既に妖に見いられておった。

妾は……桜に縛られ、妖の能力を得たのじゃ。


碕宮 :……妖に呪いを?


桜姫 :そうじゃ。そなたの働きにより解放された。

礼をいうぞ。


ナレ :妖ではなく、人間としての生を取り戻せた最初の微笑みでございました。

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