月夜の悪夢

ナレ :夜が更けてまいりました。

そして、男が現れたのでございます。


精悍な顔付き、しかし口元に光る二本の牙……。

同時に月が美しく輝き始めたのでございました。


碕宮 :……行くぞ。


硯 :……御意。


ナレ :しかし、二人は動きを止めたのでございます。


十六夜:……出てこいよ。

俺様の女にちょっかい掛けといて、帰れると思うなよ?

貴族のぼっちゃんよ?


ナレ :バレたのかと思い、潔く踏み出そうとする碕宮様。

けれど、違ったのでございます。

屋敷からやつれた篝様が、縛られて出て参りました。


碕宮 :……篝!


硯 :……お静かに。気付かれます故。


碕宮 :でも、どうしたら……!


硯 :……言われたではありませんか。

『月を映して割れ』と。


碕宮 :そうだった……。

……映したぞ。


ナレ :月を映し、割ろうと試みましたが一向に割れないのでございます。


十六夜:だれだ?!


ナレ :見つかるのも仕様のないこと…。


篝 :……?!碕……宮?なんで……。


碕宮 :く……どうするよ?


十六夜:ほぉう? さきのみや?

帝の御曹司かぁ?

皇子さまがお友達を助けに来たってか?

泣かせるねぇ……。

だがなぁ……てめぇらはここでオシマイだ!

俺様に喰らわれるんだからなぁ!

ひゃはははははは!

……ほらよぉ!


ナレ :十六夜の鉤爪が篝様に向かう、その瞬間でございました。

一瞬早く、小さな者が入り込んだのでございます。


硯 :……くぁ!う……!


ナレ :硯が小太刀で何とか受け止めたのでございます。


篝 :す、硯?


硯 :……あなた様に死なれては、奏に合わせる顔がないからですわ!


碕宮 :硯! 無理をするな!


硯 :……心得て……おります。


ナレ :しかし、相手は妖。


人間である彼女が敵う相手ではございません。


十六夜:……舐めた真似すんじゃねぇよ!

召し使いごときが!


硯 :くぅ……ああっ!


ナレ :避けたものの、肩に大きな傷を受けてしまったのでございます。


篝 :硯!硯!


碕宮 :……硯、待ってろ。俺がヤツをやる……。


十六夜:次は色男皇子さまが相手か?

もうじき、あのお嬢ちゃんは食べ頃だな……。

さっさと料理してやるぜ!

三人まとめて俺様の餌になりやがれ!


碕宮 :(どうしたらいい……迂濶に鏡が出せない……)

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