桜の舞いは涙なり

硯 :……わたくしはこの若君の侍従をしております、硯と申す者でございます。


碕宮:俺……私は碕宮と申します!


桜姫:碕宮と硯、しかと覚えた。

……碕、宮?ほう?そなた、帝の子か。

通りで整った顔立ちをしておる。

……さてと、そなたの友人じゃったな。


ナレ:顔(かんばせ)を曇らせる桜姫。


桜姫:……今から話すことを心して聞け。

碕宮、そして硯……。

この屋敷には悪しき妖がおる。

その者により、屋敷の主であるはずの妾はこの屋敷で自由に出来るのはこの陽の高い時間のみ……。

夜が更ければ、ヤツが現れる……。

その者が、そなたの友人を閉じ込めた……。


碕宮:……悪しき妖。

どのような妖なのですか?

それにあなたは……。


桜姫:……うむ、妾は鬼じゃ。

しかし、人を喰らわん。……自ら禁じた。

しかし、ヤツは既に人を喰らっておる。

……月の妖じゃ。

『十六夜』……妾の友であった。

妾が悪いのじゃ……。あやつの想いに応えてやれないばっかりに……あやつは禍々しい妖気に取り込まれてしまったのじゃ……。


ナレ:さめざめと泣く桜姫。

碕宮様は、期待と『十六夜』への同情が交錯しておりました。


碕宮:……経緯はわかりました。

どうすれば、篝を救えますか?

……そして、どうしたらあなたを救えますか?


ナレ:桜姫は静かに離れを指差すのでございました。

それ以降は何も話さなかったのでございます。

碕宮様は硯を促し、離れに向かわれました。

そこには一つの細かい細工の鏡がございました。


桜姫:……今夜は満月じゃ。

それに月を映し、割れ……。

それで全て終わるのじゃ……。


ナレ:そう聞こえたかと思うと、桜姫の姿はどこにも見当たら無かったのでございます。


碕宮:姫……。

硯、夜を待とう。


硯 :……御意。


ナレ:碕宮様は知るよしもございませんでした。

その手鏡が何を意味するのか……。

知っていたならば、きっと言う通りに出来ないのでございますから……。

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