紅い羊

 ビルの屋上から、人の群れを見つめる一つの影。

 どれもこれも、同じ顔をして歩いている。それらを例えるならば羊の群れだ。

 羊の群れには、決まったリーダーやボスはいない。彼らの中にはそのような肩書を持つものはいるが、本質的には同じものだ。単なる肩書で階級づけられた羊にすぎない。

 羊にとって「自分だけ別の行動をする」ことは非常に不安なこと。ゆえに、煽りやすい。何という扱いやすい、醜悪な生き物たちであろうか。

 ”羊飼い”が放たれる前に、事を進めておくことにしよう。影は笑みを浮かべた。


 その時だった。

 群れの中に、異質なモノを見つけたのは。


 血に染まった、赤い紅い羊がいる。

 いやあれは、羊の皮を被った何かだ。羊を扇動し、狂気へと誘う異形だ。


 始末しなければ。早急に、群れから排除しなければならない。影は行動を開始した。


 すべては動き出した。もはや誰にも流れは止められない。

 その影も、自分が流れの中にいることはまだ、知らずにいるのであった。

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