隣町。新百合しんゆり町。

 改札を出た瞬間、視界が揺れた。赤く染まる視界。行き交う人々の声がくぐもって聞こえる。吐き気がこみ上げる。

 この感覚は――

 頭に直接響くように、声が聞こえてくる。ここへ来てはならない。はやく帰れ。目の前に壁があるかのように、前に進むことができない。

 ……い……ん。

 また違う声が聞こえてくる。激しい耳鳴り。頭が焼かれるように痛い。痛い。

 おに……ちゃ……。

 おにいちゃん。

 顔をあげる。人混みの中、彼女は立っていた。あの頃と変わらない姿と笑顔で、そこに立っている。

 ここへ来て。はやく来て。


「悠斗! ねぇってば、悠斗!」

 渚の声に我に返る。あの感覚は一瞬にして消えた。周囲を見渡す。彼女の姿はない。

「どうしたの?」

「……なんでもない」

「きみ、時々ぼ~っとしてるよね。ねぇねぇ、お腹すいた! ごはん食べに行こう!」

「はいはい。もちろん、僕の奢りで、でしょ」

「わかってるじゃん! いこいこー!」

 不意に背中を叩かれたように感じた。

 振り返る。

 誰もいなかった。

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