隣町までは電車で行くことになった。徒歩で行くにはあまりにも暑すぎる。一駅なのでバスよりも安く早く着く。

 ホームで電車を待つ間、渚が唐突にその話題をふってきた。

「ねぇ、口裂け女って知ってる?」

「あの都市伝説の?」

 1979年の春から夏にかけて日本で流布され、社会問題にまで発展したという有名な都市伝説の一つだが、今の世の中ではほとんど話題にあがることがない。

 マスクをした若い女性が、学校帰りの子供に 「私、綺麗?」と訊ねてくる。「きれい」と答えると、「……これでも?」と言いながらマスクを外す。するとその口は耳元まで大きく裂けている。「きれいじゃない」と答えると包丁や鋏で斬り殺されるという、子供心にトラウマを植え付けるような内容だ。

「出るんだって」

「はい?」

「隣町に」

 からかっているわけではなさそうだった。

「あのバラバラ殺人事件は口裂け女がやったんじゃないかって話もあるみたい」

「単なる噂でしょ? 本当に口裂け女がいるわけがない。犯人が捕まらなくて、みんな不安だから、そんな話がでてくるんだろうね」

「そうだね。でも、どうする? 口裂け女が本当にいたら」

「いないよ」

 そんなどうでもいい会話をしていると、あっという間に隣町に到着した。

 そろそろお腹が空いてきた。まずは腹ごしらえだ。どうせまた奢らされることになるんだろうなぁと、悠斗はあきらめ、また小さなため息を吐いていた。

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