悠斗と渚

 日差しが強い。目が眩む。頭がふらつく。汗が止めどなく滲み、滴り落ちていく。

 午前11時。興譲駅こうじょうえき駅前広場。彼女の姿はまだない。待ち合わせ時間前に来た例がなかった。10分経って来なければ帰ろう。そう思った矢先に彼女は現れる。

「お待たせー。ちゃんと来ていたね、えらいえらい」

 白いワンピースに大きな麦わら帽子といった出で立ちで、ぴょこぴょこと飛び跳ねて悠斗の頭を撫でる。手につけた赤い花のようなシュシュが揺れる。

 身長差は約30センチ。悠斗が175センチに対して彼女は145センチと小柄だった。

「おはよう、なぎさ。それじゃさようなら」

「そりゃないでしょ、きみぃ」

 白いスポーツサンダルで背中を蹴られる。

 桐生 渚きりゅう なぎさ。それが彼女の名前だ。悠斗の幼馴染であり、どういうわけか幼稚園、小学校、中学校、高校と同じになってしまった。腐れ縁というやつか。大学まで同じになりそうな、そんな気がしていた。

「何、なに? そんなに見とれちゃって、どうしたの? まぁ、わたしかわいいからね!」

「自分で言うなんてよっぽど君はアレだね。いや、相変わらず胸ないなーって見てただけ」

 閃光の蹴りが股間めがけて飛んできた。かろうじて手の甲で防御したが、激痛が走る。皮が剥け、血がにじむ。

「いたたた。怪我したから帰る」

「いいからいくよ、もう」

 小柄な割にすごい力だ。悠斗はずるずると引きずられていく。

「それで、どこに行くの?」

「うーん、隣町までちょっとお買い物に」


 。それを聞いて一瞬硬直する。

「大丈夫なの? 今、隣町は危ないんじゃ」

「だいじょーぶ。人通りが多いところだし、明るいうちに帰るからー。それに何かあったら悠斗が守ってくれるんでしょ?」

「自信ないなぁ。僕文系で体力ないしね」

「不正解。そこは命がけでも君を守るよ、でしょ。好感度あがんないよ、そんなんじゃ」

 別にいいよ、あがらなくても。

 悠斗は渚に聞こえないように小さくため息を吐き、その小さな背中について歩いた。

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