逢魔が時

陽炎

 夏。地面を焦がす日差し。目が眩む。

 いつか見た、ひまわりだらけの景色はもう存在しておらず、地面には陽炎が揺らめいている。

 遠くに入道雲が見える。あの日も日差しが強く、入道雲が出ていた。

 ――妹のさきが死んでから、三年が経つ。今日は咲の命日だった。あの事故で父は心を病み、失踪。母はそれらをすべて振り払うように仕事に打ち込んだ。今は海外のどこにいるのか、わからなかった。連絡はもう、ほとんど取っていなかった。

 一人で墓参りをするのには慣れていた。最初は毎日、それが週に一回となり、一ヵ月に一回となった。最後に墓参りしたのは三ヵ月前。だいぶ間があいてしまったことにも気にならなくなっていた。いつからか、妹が死んだという事実は自分の中で薄れてしまったらしい。僕は冷たい人間なのだろうか。そんなことを思いながら、妹の眠る墓地へとたどり着く。


 異変はすぐにわかった。

 あまりの光景に、水の入った桶を落としてしまう。

 蝉の泣き声がうるさい。うるさいのに、すごく遠くに聞こえた。視界がぐるぐると回る。

 

 墓地中の墓石がほとんど倒れている。そして大きな穴が掘られている。遺骨を納めた骨壺が消えているようだった。


 汗が滴り落ちる。

 ふいに肩を叩かれ、振り返る。


 ――そこには。





 叫び声と同時に、我に返る。


 いつもと変わらない、墓地の風景だ。今のは一体。

 汗を拭う。首を振って、眩暈を消そうとする。蝉の声だけが、じんじんと頭に響き渡っていた。

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