月読―ツクヨミ―
るーいん
悪夢
燃えている。炎が揺らめいている。肉の焦げるニオイがする。
何もかもが赤い景色。空だけが漆黒に塗りつぶされている。
いたい。たすけてくれ。
声が聞こえる。
またこの夢か。
彼はこれが夢であることを知っている。何度も何度も繰り返し見てきた夢だ。この夢だけはいつも鮮明に覚えている。忘れたいのに、忘れられない、死の景色だ。
だからこの後、どうなるのか、もちろん知っていた。しかし、それに抗うことはできない。
――来た。
揺らめく炎をかき分け、”それ”が姿を現す。
”それ”は――だった。”それ”は嗤っている。嗤いながら、泣いている。泣きながら、悦んでいる。黄ばんだ牙をむき出しに、それは彼に近づいてくる。動くことはできない。
やがて”それ”は彼の首筋に牙を突き立て、血をすすり、肉を食いちぎるのだ。彼は激痛に絶叫する。生きたまま喰らいつくされるまで、痛みは続く。
すべてが赤から黒に塗りつぶされるまで、この夢は終わることがないのだ。
そして赤から黒となった。
「……もうすぐ、もうすぐだ」
最後に声が聞こえた。そして夢は終わる。現実が訪れる。
いずれ彼は思うことになる。この夢の方がましな現実であるということを。
この時はまだ知らなかった。
すべての夜が、始まっていたことに、まだ。
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