元・魔王の幹部の娘弟子:xx03

元・魔王の幹部の娘弟子:xx03



暫く泣いて泣き止んで。

それまで律儀に待ってた御二人は。

私を優しく見守って。


泣き虫の呻き声が小さくなったのを見計らって、ポンポンと私の肩を叩いて声をかけてきた。


「落ち着いたかい?」


「ごめんなさい、みっともないところを見せてしまいました。」


「いいえ、ウィズもいい娘を持ったわね。これだけ泣いてくれるんだもの。羨ましいわ。その優しい心を大切にね。」


ロザリーさんの言葉にコクリと頷き、涙を拭って面を上げた。


「さて、俺たちやウィズの話を聞きたいと言っていたけれど…少し暗いが、ここで話そうか?」


地面に於いたオイルライターに目を見やると。いつの間にか炎が消えていた。

燃料が切れたわけではないだろう。

酸素が少なくなっているのか、不燃性ガスが下に溜まってきているのか…

兎にも角にも、ここに留まっているのは生者にとっては危険なようだ。


「少し手間だけど…もし宜しければ、地上に行きましょう。メモも取りながら話をお聞きしたいです。」


そう言いながら、私はスッと立ち上がり。それに続いて2人の不死者も立ち上がり、地上への道を歩んでいった。



地下の納骨堂から階段をカツカツと歩み昇り、地上まであともう少しというところまで来てみると。

弱いながらも陽光が差し込んできた。

立ち込めていた霧は晴れ、来る時は曇天だったお空模様も変わっているようだ。

それを示すかのように気持ちのいい風が流れ込んできた。


しかし。流れ込んできた風の中には外の空気とは異なる匂いも混じっていた。


獣臭。


野犬の類か、あるいはゴブリンか。

常に初心者殺しに追い立てられてる彼らにとって、廃村なんかはとっても住みやすい環境だろう。

数と装備さえ揃ってしまば逆に漆黒の獣を狩ってしまうかもしれない。


ゴブリンやコボルトは洞窟に棲み着くものだと思われがちだが。

集団で潜むことの出来る洞窟なんぞ、そう多くあるわけでもなく。

大量の個体が集まったり、あるいは中で焚き火をくべたりすれば、すぐに窒息して全滅だ。

そんな事は知能が低いと言われている彼らも経験で分かっている。

洞窟を利用するのはあくまで寒い冬季や、風雨を凌ぐ時だけだ。


都合よく通気口が上方に開いている洞窟は、どこにでもあるわけでもなく。

更にいえば、そういう棲み心地のいい場所というのは大抵は別の生物が住み着いている。

先住者との土地や食糧の奪い合いは魔物の間でも頻繁に行われている。

やるかやられるか。何処の誰でも生き延びるために行動するのは一緒なのだ。


ゴブリンたちも住処を求めて彷徨っているものの…初心者殺しに目をつけられた彼らは常に不利な戦いを強いられている。

この為、彼らの多くは野営暮らしのようなものだ。

数が増えれば冒険者に討伐依頼も出されるし…初心者殺しも、返り討ちに合うのを防ぐために定期的に間引きをしている。

直立二足歩行ができて両手が使える人型生物というのは、知能が伴わなくても厄介だ。


投擲能力。

例え弓矢を扱えなくても。近くにある石を投げるだけでも当たりどころが悪ければ致命打となる。十分に脅威だ。

特に集団による投石。装備を整えた人間でも足元を中心に大怪我をするし、生命を落とす危険もある。防具を持たない野生動物なんかはひとたまりもないだろう。

ここ最近はゴブリン達も学習してきたのか、初心者殺しに対して積極的に反撃する試みが為されているらしい。


ギルドによれば、砂礫を飛ばしての目潰しが特に用いられている、と報告されている。


一体全体、何処のどいつがそんな知識を教え込んだのか…単に自然と知恵を着けただけで、時間の問題だっただけかもしれないが。


体格が劣り、貧弱と思われがちな彼らも常に漆黒の獣に追い立てられてるだけではない。暮しを脅かす存在は、彼らにとっても真っ先に排除するべき対象なのだ。

人類にとってのデストロイヤー。ゴブリンやコボルドにとってのそれは冒険者や初心者殺し。

ただ、それだけの違いだ。


そんな過酷な生存競争を生き延びて、流浪の旅を続ける人型モンスター。

破壊の権化に踏み荒らされて、放棄された廃墟に目をつけるのは当然のことだった。

この場所の場合は、いつもはデュラハンが追い払っているということだったのだが…


「なんだ、また来たのかよゴブリン共め。しつこいなぁ」


ブラッドさんも気付いたようだ。


「一、二、三…結構な数がいるな。追い払ったのは少し前だったから戻ってきやがったのか…最近は目潰しを使ってくるようにもなってきたし。まぁ、こんな身体になってからはそんな物は効きやしないがな。」


未だに階段に留まっている状態で状況判断を行っている。アンデッドの固有スキル、生命力探知で敵を数えているようだった。

闇の住人である彼らの多くは夜中か日光の届かないダンジョン内で活動し、月光のない闇夜の中でも確実に獲物に近付いてくるのは、生物の生命力を探知しているからだと言われている。

特に水の女神たるアクア様のような、生命力あふれる存在はピカピカ光って魅力的に見えるらしい。


アクア様がそういう風に見えるのは、神オーラ…つまり神気が漏れているからではないかと思ったが。

強力な神気そのものに満たされた空間には、アンデッド自体が近付くことができなくなる。

ウィズ母さんは毎日のようにアクア様と顔を合わせ、お店の中で紅茶を淹れては御馳走していたので、神気そのものは普段は漏れずに御神体に収まっているそうだ。


そんな考え事をしていると、状況を把握し終えたのか。

ブラッドさんは使い込まれた、抜き身の長剣を肩に載せながら、もう片方の手で器用に自らの首をこちらに向けて、語りかけてきた。


「ウィズの娘よ。ちぃっとばかし此処で待ってろよ。今からこのブラッドさんのカッコイイところを見せてやるからな。おい、ロザリー。起きたばかりのところで申し訳ないんだが、今から一緒にゴブリン共を蹴散らすぞ。」


「しょうがないわね。身体を動かすのは久々だけど、簡単なウォーミングアップは済ませたし。メイスを一振りしておきますか。」


彼女はそう言って袖をまくり上げ。青白い綺麗な肌の下に隠された、鍛えられた肉体を示しつつ。

得物のメイスを肩に載せながら、階段を昇っていった。


「私も行きます」


私だって冒険者なのだ。長い柄の鈍器だって持っている。ゴブリンくらい何でもない。それに、考えようによっては…良いチャンスかもしれない。

しかし、その台詞を聞いた2人は頭を振りながら真っ当な意見を述べることで、反対の意思を明確に示してきた。


「雑魚モンスターだからって舐めちゃあダメよ。多くの個体が集まったゴブリンの群れはベテラン冒険者にとっても十分に脅威に成りうるの。ウィズがいれば魔法で蹴散らせたでしょうけど…今の私達には上級魔法どころか中級魔法すら放てない。」


「そういうことだ。多勢に無勢。こういう時こそ不死者の出番だ。万が一にもウィズの娘に何かがあれば、あいつに顔向けできないからな。直ぐに済ませてくるから大人しく待ってろよ。」


そう言って私の前に出た2人の背中は、とても頼もしくもあり。



ああ、こういう光景が見たかったんだ。



教会の扉の前に並んだ2人の姿に、父さんと、今は亡き母さんの姿を重ねてしまい、思わず見惚れてしまっていた。


あの時も、そうだったのだろうか。



アクセルの街の防衛戦。


魔王軍が、多くの兵力を引き連れて、駆け出しの街に攻めて来たのである。

その計画は以前から立てられていたものの、魔王城の結界を維持にも関与していた幹部が囚われてしまい、その奪還も目的の一つとなった為。大軍勢が派遣される事態になったのだ。


デストロイヤーを撃破した経験もあるために、アクセルに住む冒険者達は一致団結して迎え撃つ事をしようとしたが…あの時とは事情が異なることが判明した。


野戦における戦略兵器ともなる爆裂魔法。

その使い手が、防衛戦に参戦できない。

究極の破壊魔法の使い手の一人である紅魔族は魔王城に向かった為にその場にいない。

となると、当然ながら、残る唯一の使い手である、現役を引退したアークウィザード。

彼女のもとに、魔王軍との交戦に際する応援が、当然ながら要請された。

しかし。

彼女は、とある事情があってそれは出来ない、と穏やかに、しかしながらきっぱりと拒否したのだ。


魔王との契約。

無辜の人々に危害が加えられない限りは、魔王軍と敵対せずに、中立の立場を貫くこと。


魔王軍の攻撃手段を縛るための契約が、今度は逆に迎撃手段を縛ってしまったのだ。

幸いにも、この時は未だリッチーであることは明かされておらず。

結界を維持する人間の魔王の幹部として、陰ながら人類を助力する形でひっそりと生きていること。

そういう風に幾つかの要点を誤魔化しながら、秘密の一部が明かされた。


そんな彼女と契約している、元・魔王の幹部も中立の立場となっている為に。

アクセルの街の防衛戦に於いて、魔王軍を積極的に迎撃せずに、籠城することになったのだ。


アクセルの街を取り囲む軍勢に対して、一応は交渉も行われた。

交渉役は、勿論ながら魔王の幹部と元・幹部だ。

魔王の軍勢の第一の要求は、囚われた魔王の幹部の身柄を引き渡すこと。

しかしながら。

その時にはもう既に、ダークプリーストは自力かつ単独で脱出してしまい。

引き渡すべき身柄が無くなってしまった事で、交渉は決裂してしまった。


幸いにも、非戦闘員が避難する時間は与えられ。

彼らが集まっている特定の区画に攻撃をしないこと。

非戦闘員が傷つけられない限りは、魔王の幹部は中立の立場を貫くこと。

そんな決まり事や紳士協定が確認されて。

アクセルの街の防衛戦の、戦闘の火蓋は切られたのだ。


駆け出しの街の住人達が勝ちうる手段は2つあった。

一つ。防衛線を維持しつつ、魔王軍の兵糧などの物資が尽きること。

戦線を維持するためには補給が必須である。

短期決戦で仕掛けてきたはずなので、物資が尽きれば退却するだろう。

何故か高レベル冒険者が数名ながら居ついており。

そして変わった名前の神器持ちがちらほらと混じっている。

更には幸いにも2重の街壁がある。

拡張工事で新たに構築したばかりの外壁と、取り壊す計画が為されていた内壁があり。

防衛は楽に行えるだろう。そう見込んでいた。


もう一つの勝ちうる手段。それは。

防衛戦の間に、魔王がしばかれ、魔王の幹部の契約が解除されること。

そうすれば、爆裂魔法の使い手が、最早何者にも縛られずに参戦できる。

魔王城にも攻め込んだ歴戦のアークウィザードが参戦すれば、魔王軍も流石に退却するだろう。


しかし、後者の手段はあまり現実的ではなかった。

先ず、魔王が倒される事そのものが不確実である。

いくら爆裂魔法の使い手がいたとしても。魔王城には結界がある。

それを確実に打ち破る必要があったのだ。

そして。彼らの臨時パーティーの第一の目的は、勝手に魔王城を目指して旅立った、アークプリーストを連れ戻すことだった。

魔王の討伐は、また今度にして、じっくり装備と戦略を整えてから行えばいい。

先ずは無謀にも勝手に飛び出した仲間を連れ戻し、その道すがらにアルカンレティアに応援を要請して。

アクセルの街の防衛戦に参戦してもらう。そういう手筈のつもりだった。


だから、兎にも角にも時間を稼ぐ。

その為に、街壁の外に出て迎撃するよりかは、引き篭もって防衛する。

そういう戦術が組まれたのだ。


しかし。

少し、見通しが甘かった。


テレポートを使ってアルカンレティアの様子を見たところ。

水の都のアクシズ教の信徒達はおよそ全てが街の外に出かけており。

応援と成りうる強力な戦力は殆ど残っていなかった。


そして魔王軍の戦術だ。

彼らはこともあろうに、塹壕を構築したのだ。

アクセルの街を取り囲むように掘られたジグザグに繋がった竪穴。

周囲には弱いモンスターしか住んでいないことを利用して。

迅速にそして確実に陣地を構築していった。

冒険者が放つ弓矢や中級魔法の弾幕を巧みに上手く遮断して。

逆に魔王軍から一方的に放たれる飛び道具や攻撃魔法。

気付いた時にはもう既に手遅れで。

野戦に持ち込んで迎撃することすら困難な状況に陥っていた。


セレナが魔王軍に漏洩させた、駆け出しの街の戦力。それが完全に把握された上での戦術だった。

塹壕への効果的な対応策である、灼熱魔法や爆裂魔法。

上級魔法に分類される、これらの使い手であるアークウィザードが。

王都と違って、駆け出しの街には数える程しか存在しない。

一番の使い手である歴戦のアークウィザードも契約に縛られて手が出せない。


辛うじて通用するのは、敵感知スキルで索敵してから、敵の潜む方向に爆裂ポーションを投げ込むこと。

しかしそれも、豊富な在庫があったとしても、弾数制限が有り。

クリエイター達が即席で作ったカタパルトも、命中率がそこまで良いわけでもなく。

駆け出しの街は完全に包囲されてしまったのだ。


街壁もあまり意味を為さなかった。

塹壕の陰から隠れるようにして、坑道を掘り進んで来たのである。

敵感知スキルも、立体的な空間の正確な方向を把握することは出来なくて。

地下のトンネルを通じて、あっさりと街の内側への侵入を果たされた。

本気を出した魔王軍に攻め立てられれば、普通の街などひとたまりもない。

幸いにも外壁のすぐ近くに内壁があったため、とりあえずは内側へと逃げ込むことで事なきを得たが。


一度低下した士気を取り戻すのはとても苦労した。

街の中央に位置するギルドを拠点にして、駐在する僅かな騎士と多くの冒険者を領主が纏めつつ、今後の方針を話し合った。中には、魔王の幹部を人質にして、交渉しようと言い出す者まで現れた。

内部崩壊が始まって、陥落寸前だったのだ。


そんな折である。

魔王がしばかれたという報せが届いたのは。

一度は底に沈んだ士気は高揚し。魔王軍も退却するだろうと、にわかに湧き上がった。



甘かった。



残党となった元・魔王の軍勢は。

新たな拠点を構築するために、何が何でもアクセルの街を陥落させる必要が出てきたのだ。


攻城戦は市街戦へと切り替わり。さらに苛烈な攻撃が続けて加えられ。

更に更にバリケードの内側にへと。街の戦力は押し込まれてしまった。


紳士協定が組まれていたため、退路だけは塞がれずに残っており。

最早、降伏してこの街を放棄するしかない。

領主が苦渋の表情を浮かべながら、そう決断をしようとしたその時だった。


それまでずっと、この街のプリーストの力では治療が施せない重傷者や非戦闘員を、次々に水の都へとテレポートで送り続けていたアークウィザードが立ち上がったのだ。

魔王がしばかれたという知らせを聞いて、契約から解放されたことを知り。


魔王をしばいたであろう、勇者と女神、その仲間たち。

彼らの帰ってくる場所を守るためにと、契約した大悪魔を従えて立ち上がり。


最後の拠点となった、冒険者ギルドの扉の前に立ち。

無謀であると引き止めた、領主に対して優しい音色で、暫く待っててくださいねと、声をかけ。

少し困った表情を浮かべながら、そうして外に飛び出したのだ。


いくら凄腕のアークウィザードでも、四方八方を取り囲まれては斃される。

前衛としてはこの上ない大悪魔がいたとしても、全方位をカバーできるわけでもない。

魔王軍としても、完全に裏切り者となった彼女に対して容赦する筈が無いだろう。

そもそも、先程までテレポートを使い続けていたのだ。

魔力なんか直ぐに切れてしまうだろう。


誰も彼もが、彼女の行く末を、そう描いて見送った。


完全に間違いだった。


迫りくる敵は触れるだけで次々と昏倒し。

強大な武器で殴られてもビクともしない。

牙や爪、鏃も刃物も通らない。物理攻撃そのものが無効なのだ。

そして、彼女は魔力切れを起こさなかった。昏倒した敵から魔力を吸い上げていた。アンデッドスキルのドレインタッチだ。

更には、なるべく街を壊さないようにと、灼熱魔法も雷撃魔法も殆ど封印しながら戦って。氷結系の魔法を主体に用いて次々とモンスターを打ち倒していったという。

現役時代の二つ名である、氷の魔女。周りの者から勝手に付けられた、当時の渾名に相応しい戦いぶりだったと聞き及んでいる。

最後に打倒されたモンスターが次々と起き上がり、かつての仲間を襲い始めたのだ。


そうして、一旦は魔王軍の残党に制圧されかけた街からは、次々とモンスターが追い出されていった。


一騎当千の戦いぶりを見せつけた、王都で名を馳せた元・冒険者。

最早、彼女の正体は明らかだった。リッチー。神の反逆者。不死者の王。

自ら名乗りはしないが、数々の特徴から、その疑いは濃厚だった。


極々、僅かな可能性として、吸魔石やマナタイトを幾つも隠し持っていて。

長年の研究の末にネクロマンサーや呪術師のスキルまでをも取得していて。

紅魔族が用いると言われている魔力を用いた身体強化の能力まで修得していて、防御特化のクルセイダー並みの耐久力まで何故か持っている。


そんな超凄腕の、エルフの血混じりで丸耳のアークウィザードである可能性が、若干ながらもあるにはあったが…

やや青白い肌を持ちながら、古く現役を退いたはずなのに若さを保っている。

そんな彼女が至高のアンデッドである可能性を否定する材料は、何処にも何一つとして在りはしなかった。


一方で。アクセルの街から一旦は退却した魔王軍だが、塹壕を構築した野外の陣地に留まった。

このまま退却して他の残党と合流するか、或いはもう一度だけ攻め込んで今度こそ確実に陥落させるか。

その2つの選択肢の間で悩んでいるようだった。


しかし。

塹壕には次々と自爆する自律稼働型の人形兵器が送り込まれ続け。

街に最も接近している塹壕にいた敵兵は後方へと退却していった。

更には。

敵軍の本陣の上空に向かって、突如として大爆発が発生し、轟音と衝撃波が彼らに襲いかかった。

わざと狙いを外す形で、爆裂魔法が叩き込まれたのだ。


退却して下さいとの、最後通牒のようだった。


このまま引いて、知った誼である魔王の娘と合流して、支えるようにと。

元・魔王の幹部の大悪魔にそう言伝を頼んで交渉し。

そうして魔王の残党は撤退し、アクセルの街の防衛戦は幕を閉じたのであった。



たった2人でアクセルの街を防衛した私の育ての両親が。

冒険者ギルドの扉の前に立ったと伝え聞いたその光景を。


今、私の目の前で教会の扉の前に立つ2人のアンデッド。

母さんのかつての仲間だった、2人の背中に重ね合わせ。


最高にカッコイイと、思ってしまった。


教会の扉の前に立った2人は互いの視線を交わして無言で示し合わせ。

ロザリーさんは教会の扉のドアノブに手をかけた。

いくらブラッドさん自身が器用でも、両手が塞がった状態では扉を満足に開けることはできやしない。

教会の扉を足で蹴って開けるのは幸運を司る女神様に対して大変な失礼にあたる。

なので、扉を開けるのはロザリーさんの役割だ。


「さぁ、いくわよ!」


バン!と大きな音を立てると共に、大きな掛け声を上げた彼女が扉を開けた瞬間に。

廃村に侵入していたゴブリン共は一斉に此方に視線を寄せ集め。

ロザリーさんの姿を確認すると。


「「「ーーーーーーーーーーーーーーーー!?」」」


彼ら独自の言語で悲鳴を叫び上げながら、我先に逃げんとばかりに一目散に、遠くへ向かって走っていった。


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